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「私は死んじゃったけど…。必ずそんな女はいるの。そりゃぁ、私みたいないい女は少ないから、何度か失敗するかもしれない。でも恐れないで、時間をかけてそういう女を見つけるのよ。そして、今度は先輩がその人を見つめ続ける番よ。その人と作った家族を見つめ続けるの…。」
希久美の言葉を聞いただれもが、彼女の言葉に感動して流れる涙を止めようがなかった。ナミもテレサも、病室の外で声を押し殺し、抱き合って泣いていた。
「あのう、荒木先生」
抱き合って泣いているナミの肩を看護師が叩いた。
「えっ、なに?」
涙を拭きながら慌てて立ち上がるナミ。テレサは崩れた化粧を見られないように顔をそらした。
「あのう、急患なんですけど、PHS鳴ってませんでした?」
「ご、ごめんなさい。テレサあとは、菊江が静かに去るだけだから頼むわよ。できるだけ早く戻るから…」
インカムをテレサに投げ渡して、ナミは看護師とともに救急処置室へ走って行った。
「石津先輩、神様から貰った時間も残り少なくなったわ。そろそろ帰ります。」
希久美は、ベッドで半身を起こし泰佑に言った。長い時間話していたから、薬が切れかかっているかと心配したが、泰佑はまだ身体が動かせないようだ。
「そうか…。今日は来てくれてありがとう。」
「最後にお願いなんですけど…。」
「なに?」
「私が天国に帰っても、あのホテルに誘った性悪女は、だめですよ。」
「だから、親友の見合い相手には近づかないって。」
「安心しました。」
「自分も菊江に最後のお願いしていいかな?」
「だめです。いくら謝っても許しません。」
「そうじゃないよ。」
「なら、なんです?」
「その…。一緒に連れて行ってくれないかな…。」
希久美の胸がキュンと鳴った。ここで、なんでそんなセリフがはけるの。狂おしいほどこの男が愛おしく感じられた。
「そんなこと今言うんだったら、あの時私ひとり残して、出て行かないでくださいよ…。」
「ごめん。」
「だめに決まってるでしょ。」
「そうか…。無理言ってごめん。」
インカムを通してふたりのやり取りを聞いていて、テレサの霊感が働いた。マイクに向かって指示を出す。
『ナミからのお達しよ。男性機能が回復しているか、キスして確かめてから去りなさいって。』
「えーっ?」
「どうした?」
ひとりで何かに驚いている希久美を見て、泰佑が不思議そうに尋ねた。
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