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「いいのよ。」
「オキクったらまだ泣いてる。何があったのよ?」
「慌てないの、ゆっくり話してあげるから。」
「でも飲みに行くなら、高校の制服はまずいんじゃない。」
「そうね、ナミのロッカーに着替えあるでしょ。」
「あるけど…。なにオキクその歩き方、どうしたの?」
「ひっく、ちょっと痛くて…。」
「えっ?えっ?なんで?なんでよ?」
「ひっく、ひっく、ほっといてよ!」
「そうよね、いくら久しぶりだからって、あの回数はないわよねぇ。」
「あんた、聞いてたの!ひっく。」
「えーっ、何の話しなの?気が狂いそうだわ。早く聞かせてーっ。」
仲良し三人娘は、肩を組んで廊下の奥へ消えて言った。
希久美は、自宅の電話の受話器を置いた。
「誰からなんだ?」
義父が興味津々に、しかしさりげなさを装って希久美に問いかけた。
「この前過労で倒れた同僚のおばあちゃんからよ。」
「なんで?」
「この前お見舞いに行ったから、お礼の電話よ。」
先週、泰佑は退院した。おばあちゃんは、お礼とともに、今は生活に落ち着きを取り戻して元気に働いていると報告してくれた。
「なんで本人じゃなくて、おばあちゃんなんだよ?」
義父に説明は難しい。泰佑は菊江との約束を忠実に守っているのだ。
「もう…。お義父さん、うるさい。お母さんなんとかしてよ。」
希久美が自分の部屋に逃げ込もうとする背中に義父の言葉が追いかける。
「来週末、石嶋君を家に呼んだから、おまえも家に居ろよ。」
希久美が立ち止まった。そして振り返るとものすごい剣幕で義父に言い返す。
「なに余計なことしてるの!」
あまりの剣幕に、さすがの義父もからだをこわばらせる。台所から希久美を叱る母の声がした。
「でも母さん、お義父さんの魂胆、見え見えよ。」
希久美は大きな音を立てて、自分の部屋に駆け上がった。荒々しくドアを閉めると、ベッドに倒れ込んだ。
「元気に働いている…か。元気な泰佑を、周りの女の子がほっとくわけないしね…。」
枕に顔を埋めながら、希久美はつぶやいた。
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