オキクの復讐

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 希久美の玄関の呼び鈴が鳴った。 「おっと、石嶋君かな。やけに早いな…。ほら希久美出迎えるぞ。」  結局義父に逆らえなかった希久美が、嫌々リビングのソファーから立ちあがった。ここで石嶋と逢ってどうするつもりもない。義父が何と言おうと、石嶋が何と言おうと、来た時と同じ状況で帰ってもらおう。希久美はそれだけを考えていた。  義父が玄関のドアを開けて招き入れた青年の顔を見て、希久美は硬直した。 「君は誰だ?」  驚いた義父が強い語気で青年を誰何する。 「石津泰佑と言います。」 「何者だ?」 「お嬢さんの会社の同僚です。」 「何しに来たんだ?」 「小川菊江さんである青沼希久美さんに逢いに参りました。」 「お義父さん、そんなやつ追い出して!」  踵を返して部屋に逃げ込もうとする希久美の手を、泰佑が掴んだ。 「お前、希久美になんてことするんだ!」  娘を助けたい一心で、義父が握った拳を泰佑の顔に殴りつけた。泰佑は避けもせず、義父の拳固を受けた。泰佑の口から流れる血があごを伝わってワイシャツの襟を赤く染める。しかしそれでも、希久美をつかむ手も離そうとしない泰佑に、もう一発見舞おうと、義父が拳固を振り上げた時、希久美が自らの身体を泰佑と義父の間に投げだした。泰佑が希久美の身体を抱きとめると、義父を正視して赤く染まった口を不自由に動かしながら言った。 「どうか、少しだけお嬢さんとお話をさせてください。少しだけでいいんです。」  泰佑の迫力に押され、義父はいいとも、ダメとも言えなかった。義父が動きを止めたことを確かめると、泰佑は希久美の腕を持って外に連れ出していった。玄関を出る時に、石嶋と出くわした。 「石嶋、お前には悪いが、譲れないんだ。」  そう言い残して泰佑は希久美の腕を引いて出ていった。  石嶋はふたりの後ろ姿を見送ると、事態が飲み込めないままとりあえず青沼専務に会うために、家の中に入っていった。玄関で青沼専務が奥さんになだめられている。 「俺がお前の家に始めて行った時も、あんな目つきしていただって?嘘だろ。勘弁してくれよ。希久美、大丈夫かな。」  希久美を追おうとしている義父の袖を、希久美の母は離そうとしない。義父は母になだめられながら、ようやく石嶋の存在に気付いた。 「あっ、石嶋君。来てたのか…。」 「何かあったんですか?」
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