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今度は、棒を泰佑の頭に振りおろした。希久美の顔は怒りで真っ赤になっていた。泰佑の額にひとすじ血が流れた。
「そうだ。ラブホテルに入る時に顔を見られたくないなんて言って、両手で顔を隠した。だから前が見えなくて、ドアにぶつかってたのを思い出したよ。」
希久美は棒を横に払う。棒は泰佑の肘に的中して鈍い音がした。骨がなんとかなったようだ。
「入口で部屋の写真見ながら、あれもいい、これもいいって…。お前なかなか入る部屋を決められなかったよな。」
希久美は泰佑の胸を突いた。咳き込んで泰佑の顔がゆがむ。
「ラブホテル入った時、小銭が無いって言ったら、釣銭がでたら恥ずかしいって、自分の財布からじゃらじゃら小銭出してた。」
希久美の振りおろした右膝への一撃で、泰佑は地面に片膝をついた。
「そう言えば、ぼこぼこ動くベットが珍しいってはしゃいでたっけ。」
希久美はもう一方の膝を打った。泰佑は、たまらず両膝を折って跪く。
「それに、ガラス張りのバスルームが恥ずかしいから、俺に目隠ししたよな。」
棒がもう一度泰佑の肩に打ちおろされる。もう泰佑はふらふらだ。
「馬鹿だよな、お前。枕元にあったコンドームの袋を見て、ティーパックだと言い張ってた。」
口をふさぐために、希久美は棒を泰佑の口めがけて振り払った。口の中が血で真っ赤になった。それでも泰佑は喋るのをやめなかった。
「覚えているか?いざベットに運んで強く抱きしめたら、お前、気を失いやがって。」
ついに希久美は、泰佑の頭に致命的な一撃を見舞った。泰佑はついに、地面に倒れた。ぼろぼろのスーツのあちこちのほころびから、血がにじんでいる。地面にあおむけに倒れながらも息も絶え絶えに、泰佑が最後のコメントを吐いた。
「まだ…高校生だった俺が…気を失っている可愛い女の子を…だく勇気なんか…あるわけないだろう。からだの変化が…確認できたら…そのまま帰ったの…知ってた?」
そのコメントを聞いて、希久美の体中の血液が逆流した。
「このばかやろー。お前なんか死んじまえっ。」
希久美は渾身の力を込めて、10振目を打ちおろした。棒は、泰佑の頭の寸前のところで地面にあたりはじけ飛ぶ。棒を激しく振り回していた希久美の手は、もう真っ赤にはれていた。荒い息をしながら、空を仰いだ。ラブホテルで何があったにしろ、この男は私に悲惨な10年を過ごさせたことに間違いはない。
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