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「もっとも、青沼さんの家に行ったのは、失礼ながら、お嬢さんとのことをお断りするつもりで行ったんですけどね…。ああ、ナミ先生、口にケチャップついてますよ。」
石嶋がナミの唇についたケチャップを、親指で拭った。ナミは自分の顔が火照って来るのがわかった。
「自分の本当の想いがどこにあるか、見つけました。ユカの力を借りたのは、相変わらず情けないんですが…。」
石嶋がナミのあごを指で支えると、ゆっくり顔を近づけテーブル越しに、ナミに口づけをした。ナミは、石嶋にあごを指で支えられた時点で、もう目を閉じていた。石嶋のキスは甘酸っぱいケチャップの味がした。崩れそうになる身体を、なんとか堪えて抵抗を試みる。
「ユカちゃんの前でそんなことして…。」
「いいんです。ユカも公認ですから。」
「私の気持ちは考えないんですか…。」
「たったふた言に、自分の気持ちを秘めるなんて…。解読するのに時間がかかりましたよ、ヨボ。」
今度は、ユカが抱きついてきてナミのほほにチュウをした。
「これからはユカと自分がナミ先生の強い味方になりますから。いつでも、ご飯を食べに来てください。」
「正直言ってヒロパパのつくったご飯は美味しくないです。」
目に一杯涙を溜めながら、それでもオムレツを口に運ぶナミの肩を、たくましい腕と可愛らしい腕が包んでくれた。
リオデジャネイロのアントニオ・カルロス・ジョビン国際空港の到着ロビーで、泰佑は希久美が出てくるのを心待ちにしていた。泰佑は、JOCの仕事で次回オリンピックの開催地となるリオへ赴任しているのだ。もっとも、なぜ遠いリオへの赴任に自分が選ばれたのかに関しては、希久美の義父の影響があることは容易に想像できた。やがて、サングラスをかけた希久美が凛とした歩調で出てきた。あいかわらずカッコいいな。泰佑はその姿に見惚れていた。
「ようこそ、リオへ。」
「さすがに24時間の旅は身体にくるわね。」
希久美は、サングラスを外しながら泰佑の歓迎の言葉に答えた。
「久しぶりに見ると、オキク、綺麗になったな。」
「なにが久しぶりよ、毎日スカイプしてるじゃない。長旅でむくんでるんだからそんなに見ないで。」
そう言いながらも、希久美もまんざらではなさそうだった。
「お疲れのところ申し訳ないが、付き合ってくれないか。荷物はアシスタントに家に運んでもらおう…。荷物はどれ?」
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