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希久美は、山もりの荷物を指し示す。
「ちょっと多すぎない?」
「女の旅は、こんなもんなの!それにおばあちゃんから頼まれた物も入ってるしね。」
泰佑は同行してきていた現地のアシスタントに、希久美の荷物を指示する。
「Bem-vindo esposa !(ようこそ、奥様!)」
アシスタントは、希久美にそう言うと、苦労しながら荷物を運んで行った。
「ねえ、泰佑。彼なんて言ったの?」
「えっ、まあ、ウエルカムって感じかな」
希久美は視線を合わさず答える泰佑に、妙なよそよそしさを感じた。
泰佑はタクシーを駆って、希久美をリオのダウンタウン「セントロ」にあるサン・フランシスコ・ダ・ペニテンシア教会へ連れて行った。中に入った希久美は、その黄金に輝くゴチック建築と高い天井に描かれた絵画に圧倒された。泰佑は希久美の腕をとって祭壇の前に進む。祭壇の前では、司祭が立ってふたりを待っていた。泰佑は立ち止まると希久美の肩を持って正対する。そして、ポケットから指輪を取り出した。
「希久美、結婚してくれ。」
希久美は、泰佑の突然のプロポーズに驚くこともなく平然としていた。
「なにこれ。祭壇の前で、司祭まで用意して、サプライズプロポーズ?」
「ああ。」
「泰佑。ここで、私が断ったらどうするの?」
「受けてくれるまでこの教会から出さない。」
「勝手ねぇ。」
「自分の妻はオキクしかいない。」
「私としか子供作れないからでしょ…。」
「いいじゃないか、浮気もできないんだから。」
「ああ、こんなの私が夢に描いたプロポーズじゃないわ。しかも相手が泰佑なんて…。」
「オキク!」
「わかったわよ…。さっさと済ませましょう。」
希久美は覚悟を決めて、祭壇に向き直った。司祭は何やら言っていたが、ポルトガル語なので何を言っているのか皆目見当がつかない。泰佑は、満面の笑顔で、希久美の薬指に指輪をはめた。おごそかな空間の中で、誓いの言葉とキスを終えたふたりは、腕を組んで教会の出口にむかって歩いた。
「オキク、しあわせだよな。」
「はいはいはい。」
「突然でびっくりしたか?」
「はいはい驚きましたよ。到着したとたんにあなたの妻になるなんてね…。」
「そうだろ。」
「驚きついでに泰佑もびっくりさせてあげましょうか?」
「なに?」
「あなた夫になった瞬間に、お父さんよ。」
「えっ」
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