オキクの復讐

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 田島ルーム長は苦笑いしながら、デスクを離れる希久美の背に声をかける。 「じゃ、人選急げと言いたいのも、当然わかっちゃうよな。青沼!」  ローカルエレベーターで4階に降りると、社食専用のフロアがある。社食は、 和食・洋食・中華・カフェテリア・蕎麦の5つのお店に分かれていて、社員は好きな店を選び、好きな料理をIDカードのICチップで購入することができる。気分の晴れない時は、希久美は比較的落ち着いて食事のとれる和食の「旬」に行くことにしている。  窓際の席に着いて、浜離宮恩賜庭園の緑を眺めると、少し気持ちが落ち着いた。箸を口に運びながら希久美は考えた。このままの精神状態では、仕事もお見合いも、いつか手痛い失敗をする。泰佑への怒りを何らかの形で決着させなければ…。しかしどうやって?何かに没頭して忘れる?いや10年も引きずっていることを、当人を目の前に忘れられるわけがない。許す?とんでもない、それでは今までの自分があまりにも惨めだ。あの悪党を殺す?コンクリの中に生き埋めにするなど想像するだけで魅力的なプランだが、実現性が乏しい。殴って、蹴って、病院送りにする?それではあまりにも一過性だ。痴漢に仕立てて、社会的に抹殺する?しかし…おのれだけが知る潔白性をよりどころに、どこかで平安に生きているあいつを想像するだけで我慢ならない。  そうだ、死ぬまで自らの『おこない』を悔いる人生。泰佑に今後の人生をそんな風に送らせることができたら、きっとこの気持ちを決着させることができるにちがいない。絶対に、怒りの決着は復讐しかないのだ。そんな思いを巡らせていた希久美に、男が突然声を掛けてきた。 「そこの席空いているか?」
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