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「問題解決よ。どんな薬も処方箋無しで手に入れられる『闇の薬局』ってのがあるんだって。」
「ねえ、誰から?」
「それが名乗らないのよ…。着信番号も非表示だからわからないわ。そう言えば水が流れる音も聞こえてた。でも不思議よね。こんなグッドタイミングに、いったい誰かしら?」
テレサは相手が誰だか本当にわからないらしい。
今日は休日であるが、ナミは医局の自分のデスクで、最近の小児科学の医学論文を読んでいた。休日当番で病院に詰めていたのだ。
『荒木先生、急患です。』
院内PHSで呼ばれ、論文集を閉じて小児科診療室に急ぐ。
診療デスクに着席して招き入れた患者は、5歳くらいの女の子とその父親だった。
「どうしました。」
「朝から熱が出て…。」
女の子を抱いた父親が、心配そうに答えた。
「わかりました。とりあえずもう一度熱を測ってみましょうか。看護師さんお願い。」
ナミの指示で看護師が、父親から女の子を受け取ろうとしたが、女の子が父親にしがみついて離れない。
「おやおや、甘えん坊なお嬢さんだこと。それならお父さんに抱いてもらったままお熱を測りましょうか。」
ナミが体温計を女の子の脇に差し入れようと近づくと、今度は父親から離れてナミの腕の中にもぐりこんだ。
「おい、ユカ。先生が迷惑するだろう。」
父親が慌てて娘を離そうとしたが、ナミが制した。
「いいですよ。ここがいいなら、ここでお熱を測りましょう。」
ナミは女の子を抱きながら、あらためて父親を観察した。ずいぶん若い父親だ。
「ユカちゃんに咳、鼻水、嘔吐、下痢などの症状がありましたか?」
「ええ、朝少し咳をしていたようですが…。」
父親が心配そうにわが娘の顔を覗き込んで言った。
「ユカちゃんの普段の生活で、様子が変だと思うところがありましたか?」
「少し元気が無いようでしたが、特に異常なことはなかったです。」
ナミは、体温計を女の子の脇から抜き取り、温度を確認すると父親に言った。
「確かにお熱が高いですね。のどの腫れから考えると風邪でしょう。発熱の多くは、風邪などのウイルスの感染によって起こりますが、もともとはウイルスをやっつけるために、自ら熱を出してウイルスの住み難い環境をつくり出しているのですよ。高温になると活発になる免疫もあるし、ウイルス感染の殆どは自然に治癒しますから、安心してください。」
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