オキクの復讐

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 ユカは顔をナミの胸に埋めている。ナミの話す声が、胸の振動から直接聞こえてくるのが心地好いのか、すっかり安心して腕の中におさまっている。 「わかりました。」  父親はナミの診断に、安心したように娘の頭をなぜた。 「ユカちゃんの治る力を少し手助けしてあげれば、だいたい2、3日でよくなりますよ。お熱が高くなり過ぎないようにお薬の処方を出しておきますから、帰りに薬剤部に寄って行って下さい。」 「ありがとうございました。さあ、ユカ。家に帰ろう。」  父親がユカを引きはがそうとしたが、今度はナミから離れない。ナミは笑いながら言った。 「変な話ですけど、小児科医になって以来、ここまで患者のお子さんに好かれた経験はないわ。」 「すみません。ユカも初めて会った人にこんなにベタベタすることは無いんですが…。」 「いいですよ。これから薬剤部へお寄りになるでしょう?今日は休日だから他に診療もないし、病院出るまでユカちゃんを抱いてお送りしますよ。」  ナミはユカを抱きながら、若い父親と連れだって診療室を出た。 「ユカちゃん。お母さんは、今日はお仕事なのかな?」  ユカは答えなかったが、ナミはユカのしがみつく力が強くなったような気がした。質問は父親が代わりに答えた。 「ユカの母親は、亡くなったのです。」 「ごっ、ごめんなさい。変なこと聞いちゃって…。」 「いえ、気にしないでください。」  石嶋は歩く歩調にあわせて、ゆっくりと話し始めた。 「実は、ユカの両親は3カ月に交通事故で亡くなったんです。ユカの父親は自分の兄で…。ユカの祖父母もとうに亡くなっているし、今はとりあえず自分が、面倒を見ているんです。早く適当な里親が見つけないと…。やはりユカも父親と母親がそろう優しい家庭で育てられた方が、幸せでしょうから…。」
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