オキクの復讐

25/128

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
 女豹の様に泰佑に飛びかかり、そこで希久美の意識が飛んだ。幸いにも、ウイスキーの酔いが、やりたくなる薬の効果を遮断したようだ。  希久美はホテルのベッドの上で目が覚めた。希久美は昨夜の記憶をたどったが、どうも乾杯のあたりから思い出せない。どうやってこのベットにやってきたかが思い出せない。希久美は室内を見渡して、枕元に一枚のメモを発見した。 「まずいカクテルご馳走さま。あらためて嫌われている自分がよくわかった。」  結局10年経った今も、希久美はあの日と同じように乱れたベッドにひとりでいた。ただ違っていたのは、部屋は明るく小奇麗なホテルのツインルームで、希久美は服を着たままだったということだ。石津先輩は、今度は希久美に何もしなかった。ほっとした、恥ずかしい、悔しい、そして訳もわからず無性に腹が立つ。様々な感情が入り混じり、二日酔いの頭痛とミックスされて、起きたての希久美の頭を混乱させた。なんでこうなるの? 希久美はひとり残されたベッドの上で、また声をあげて泣いた。泰佑に泣かされたのは、これで3回目だ。  PCのウェブカメラを使ってグループチャットをしている3人は、それぞれに夜のお手入れに余念がない。テレサが、フェイスパックのずれを気にして、口をなるべく動かさないで言った。 「オキクもドジね。薬入れたのバレちゃうなんて。」  小さな綿で顔に美白水をしみ込ませながら希久美が答える。 「我ながら情けない。なんでバレたのかわからないわ。」  ナミは濡れた髪にタオルを巻き、足の爪にマニキュアを指してため息をつく。 「もう警戒してオキクのおごりは口にしないわね。」 「でも、またヤラレなくてよかったわよね。これでヤラレてたら10年前と何の進歩もなかったってことだもの。」  無神経なテレサの発言に、ウェブカメラ越しにナミが目をむく。希久美のがため息混じりに、テレサに応える。 「悪党も大人になったのか、それとも私の魅力が衰えたのか…。」  綿を放り投げて、希久美がふたりに訴える。 「ねえ、この先どうその気にさせたらいいと思う?」 「復讐を断念するわけにはいかないわよね?」 「ナミ、何言ってるの。あたりまえじゃない!」 「もうやりたくなる薬も使えないし…。」  フェイスパックを剥がしているテレサの手が止まった。何か思いついたようだ。顔にパックの皮を半分ぶら下げて、彼女は言った。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加