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「なんでこんなところ知ってるの?」
「前に業界の人に連れてきてもらったの。」
希久美の問いに、平然を装うテレサが答える。実は、彼女も店に圧倒されて内心怯えていたのだ。自分の声がかき消されないように、テレサの耳元で両手をメガホン代わりにしてナミが言った。
「本当にこんなところに専門家がいるの?」
「ちょっと!」
テレサが憮然として答えた。
「男であることを知られながら男に愛されるニューハーフを、専門家と言わずして誰を専門家と言うの?」
彼女達が席に着くと、やがてフロアスタッフにエスコートされ、けばけばしい羽根衣装に身をまとった痩せた中年のニューハーフがやってきた。フロアスタッフは、チイママの順子さんであると紹介した。席に着くなり、チイママは毒舌を吐き始める。
「家のトイレでウンチを出すのに苦労してる時から、今日はろくなことがないって気がしてたのよ。」
「いきなりですか…。」
「あんたたちモノホンでしょ。朝いちからおむつも取れてないモノホン客の席に着かなきゃならないなんて…。この世に男はいないの?」
「まっ、そんなこと言わずに、楽しく飲みましょうよ。」
「あらやだ、嘘よぉ。お仕事だからいいのよぉ。仕方なく飲むわ。」
希久美はみんなのグラスに酒を注ぎながら、チイママのご機嫌を取ってなんとか乾杯までこぎつけた。乾杯を終えると早速まじめな口調で、ナミがチイママに問いかける。
「ところで、ニューハーフのみなさんは、私たち…モノホンなんかより断然色気がありますよね。」
「ちょっと馬鹿にしないで。あなた何人の男知ってるの?せいぜい数十人でしょ」
ナミは話の流れ上、この年で未だ処女だとは言いだせない。
「私たちは百人の単位で男を知ってるのよ。なかには千人の単位の奴もいるわ。色気は、やっぱり男の数で決まるの。」
「当然、複数プレイもなきゃそんな数達成できませんよね?」
的を外したレスポンスのテレサを睨みつけるチイママ。希久美は慌ててとりなす。
「私もチイママみたいな色気を身につけて、幸せになりたいなぁ。」
そう言いながら、希久美はチイママに酒を勧めた。チイママもだいぶ酒が回ってきたのか、口が柔らかくなってきた。まあ、もともとニューハーフはおしゃべりな人種なのだが。
「幸せ…。でもね、実は楽しいニューハーフにも悲しいお話があるのよ。」
「なんです?」
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