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「なんでもいいの。弱さをみせると大概の男は『こいつの為になんとかしてやりたい』と思うのよ。そしてこの想いは、いつしか『こいつは自分を必要としている』になり、結局『こいつを自分のものにしたい』欲求につながっていく。男の所有欲が呼び醒まされる瞬間ね。」
「如来降臨って感じ?」
「ぜんぜん違うんじゃない?」
「うるさいわよ小娘たち、話をお聞き!いよいよ決めどこよ。弱さを見せて『必要としている』の想いを生み出し、それを『自分のものにしたい』の実行動に進化させるには、もうひと工夫が必要なの。何だと思う?」
誰もが返事をせず。固唾を飲んでチイママの答えを待った。
「どこでもいいから女の身体の一部分をチラ見させるの。いい、モロ見はだめよ。相手が引いちゃうから、あくまでもチラ見…。うなじとか、足首とか、唇とか、まつ毛とか…。すると、不思議ねぇ、その部分を見た男たちが完全な女として私たちを錯覚してしまう瞬間が訪れるのよ。いわば、樹を見て、森を見ずって事かしら…。そう、これがクライマックス。この瞬間をモノにできれば、本能に抗えない男達は、ほぼ100パーセント私たちの体に落ちてくるわ。」
「チイママすごい!」
「感動した…。」
興奮する希久美。ナミなどはもう涙ぐんでいた。
「余計な話だけど、一度私たちの身体に落ちた男たちは、なかなか抜けられないみたいね。」
「どうしてですか?」
「ばかね、案外気持ちいいからに決まってるでしょ。」
「すみません。そっちの話しも詳しく教えてもらえませんか?」
身を乗り出してきたテレサの額を、チイママは押し戻した。
石嶋がセッティングしたデートに、希久美は満足していた。実は希久美にとって石嶋は、そんなに関心の持てる相手ではなかったのだが、恩義のある義父に紹介された以上、デートのひとつくらいしなければ申し訳が立たない。初めてふたりだけで逢うことになった今夜、その会食を準備した彼のセッティングには、店の雰囲気、サービス、料理の流れ、味とも、うるさい希久美も文句のつけようがなかった。義父が彼を買っている理由の一端を見たような気がした。一方石嶋は、料理を目の前にして、時々見せる希久美の遠い視線とため息が気になっていた。しかし、相手が上司の娘と言うこともあり多少のことは目をつぶることにした。やがて希久美は、自分ひとりでないことを思い出し慌てて会話を始めた。
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