オキクの復讐

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 ナミの病院では、病院内の施設を開放して、地域住民のための市民公開講座を開催していた。市民講座は月に一度休日に開催され、今月は小児科が担当し『子供の急な発熱への対処』というテーマで、ナミが講師を務めることになっていた。司会である事務長の紹介の後、ナミが講師席についた。来場者の顔ぶれを見渡すと、その中にユカのパパを発見した。市民公開講座なのだから、興味のあるテーマだったら来ているのも当然だとは言え、彼が自分を見つめていると思うとなぜかナミの胸の鼓動が早まった。  PCをプロジェクターに投影して、説明を始めようとすると小さな女の子がトコトコ歩いてきてナミの膝の上にちょこんと座ってしまった。 「あら、ユカちゃんじゃない。」  ナミは突然の来訪者に驚きながらも、ユカを慌てて引き戻そうと席を立つ父親を制した。 「私もアイドル並みにこどもの患者さんのファンが多くて…。今日も可愛い親衛隊が来てくれました。皆さんがお嫌でなければ、このまま話しを進めさせていただきますが、よろしいですか?」  ナミの申し出は来場者の笑いと拍手で承認され、講座は始まった。ユカを膝に抱いたままの講座は、会場をアットホームな雰囲気に包み、ユカの笑顔は受講者と講師のフランクなコミュニケーション形成に貢献した。ナミ個人にしても、ユカを膝に置くことにより、パパの視線から受ける不可解なドキドキ感を回避することできてありがたかった。ユカは時にはレーザーポインターを持って実際の助手の仕事も務め、講座は無事に終了した。 「どうもすみません。今日はユカを見てくれる人が居なくて。家に置いておくわけにいかないので、迷惑だとは思ったんですが連れてきてしまいました。」  講座終了後、ユカのパパが慌ててやって来た。 「いいえ、おとなしいし、手伝ってくれましたし、来てくれてありがたかったですよ。」 「いいえ、ご迷惑をおかけしました。ユカ、ほらおいで。」  ユカは、しぶしぶナミの膝から降りて、パパのそばに寄って行った。ユカの手をとって立ち去りかけた石嶋だが、思い直したように立ち止まる。 「あの、お忙しいところ誠に申し訳ないのですが、講座の内容について最後にひとつだけ質問してもいいですか?」
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