オキクの復讐

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 もちろん公のプロジェクトとともに、私のプロジェクトの進行も重要だ。プチ・パレスのチイママのアドバイスを軸にしながら、泰佑の気持ちをこちらに向ける努力も怠ることが出来ない。週明け提出の事業収支計画を作成するため、出勤を余儀なくされたある土曜日。希久美は、長い髪に軽いウェーブをかけて、少女っぽい花柄のワンピースを着てオフィスへ向かった。オフィスにふたりだけになる土曜出勤に、普段会社には着てこないような服で出社し、自分に見せるために特別におしゃれしてきたと、泰佑に淡い勘違いをさせるのが目的だ。  オフィスに行くと、泰佑はもう先に来て作業を進めていた。泰佑もカジュアルな私服姿だった。椅子に浅く腰かけ、素足にデッキシューズを履いた長い足をテーブルの上に組んで、予算資料を読んでいた。しばしその姿を眺めていると、10年前渋谷で待ち合わせた彼の姿が蘇ってきた。今日の私服姿は、あの頃にもまして肩幅の広さと足の長さを強調する。あの事さえ考えなければ、彼は希久美の関心の持てる男性リストのトップに名前を連ねられるクオリティを保持している。だからこそ、余計に彼が許せない。また怒りが、希久美の血を沸騰させる。しかしここはひとまず自分を落ち着かせて、買ってきたスタバのコーヒーをポットからコップに移し、泰佑のデスクに持って言った。 「土曜出勤なのに早いのね。」 「貴重な休日だから、早く終わらせたい。」  泰佑は希久美を見ても朝の挨拶すらせずに、ぶっきらぼうに答えた。 「コーヒーどう?」  希久美はカップを泰佑の前に置いた。泰佑は、じっとカップを見つめ手を出そうとしない。 「なによ。公私の公では、コーヒーに悪戯はしないわよ。安心しなさい。」 「ああ…。ありがとう。」  泰佑は恐る恐るカップを手に取った。希久美は席に戻る背中に、泰佑の視線を感じた。どんな想いの視線なのかはわからないが、とりあえず服を変えてきた作戦は成功したかもしれない。
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