オキクの復讐

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 希久美の言葉に返事もせず、泰佑は怒ったように席を立ち、ランチボックスの空きがらを持って給湯室へ消えていってしまった。彼の反応を見た希久美は、作戦が成功しているのかどうか自信が持てなかった。しかし、こんな会話が気安くできるようになったのも、自分と泰佑が少しづつ親しい仲になりつつある証拠だろうと自分を納得させた。この先、より「親しい友達」になり、さらに「特別な友達」になるなんて、なんて先の長い話なんだろうか。  午後の作業に入り、事業収支計画を完成させる頃にはすっかり夜となってしまった。一応泰佑に夕食を誘ったが、今度はあっさりと断られた。昼の会話の内容をまだ引きずっているようだった。  泰佑との初めての出張で、希久美は鳥取県庁に居た。商工観光課のメンバーに、開館記念事業の動員広報計画について企画を説明しているうちに、気分が悪くなってしまった。会議を中断して慌ててトイレに駆け込んだ。気分も落ち着いてトイレから出るとそこに泰佑が待っていた。 「具合悪いのか?」 「ちょっと目まいがして…。」 「息を吸う暇なく、あれだけしゃべり続ければ、酸欠にもなる。」 「うるさいわね。行くわよ。」  会議室に戻り中断の失礼を詫びて、希久美は説明を続けた。会議の終盤には遅れて部長が参加してきた。部長は、総務庁からの出向で、2年ほどこの役職を務めれば中央に戻るキャリアだ。地方の施設の開館記念事業など爪の先ほどの関心もないはずなのに、企画の説明終了後に、あたかも最初から居たかのように会議を締める。 「とにかく、たくさん動員できるように派手に頼むよ。なんなら、ジャニーズ事務所の役員が六本木の飲み友達だから、紹介してもいいよ。」  希久美は笑いながら、曖昧な返事を返した。 「さて会議も終わったところで、今夜はわざわざ来てくれた君たちへのお礼に、席を設けたんだが、どうだい。」  日帰りを想定していた希久美と泰佑はお互い顔を見合わせた。泰佑は目で今日は希久美も疲れているから、辞して帰ろうとサインを送ったが、希久美の返事は違った。 「ありがとうございます。ぜひご同行させていただきます。」  希久美が部長に案内されたのは、国の登録有形文化財にも指定されている「善五郎蔵」内にある、しゃぶしゃぶ・すき焼きの専門店だった。宿と帰り便の変更手配で遅れてきた泰佑が席に着くと、部長はご機嫌顔でうんちくを始める。
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