オキクの復讐

42/128

8人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
「ここのあたりはね、江戸時代から、米子城下の十八町のひとつとして発展してきた法勝寺町というんだ。町禄として、唐津物・古物商が許され、現在も陶器や呉服の老舗が多いのが特徴でね。ここに実在した築120年の三連蔵がこの『善五郎蔵』。再開発にあたり、この蔵を商店街の中心施設としてショップとギャラリーにリニューアルしたんだ。」  それからの部長の話は、総務庁勤務の自慢話と地方出向の嘆きばかり。泰佑は、部長が話している方向がほとんど希久美にむいているのに気付いた。そしてその部長の意図が、委託会社のスタッフを慰労しているものではなく、単に希久美の女の部分に関心があるからなのだと気付くのにそう時間はかからなかった。食事も終わり、それでは2次会へと部長が提案すると、県庁の部下たちは心得たもので、私どもは明日がありますのでと辞して、部長についていくものはひとりもいない。つまり、これから部長が気兼ねなくふるまえるようにする気遣いなのだ。希久美の身を案じてそばに貼りついている泰佑に対し、部長があからさまに不快感を見せた。2次会の店では、酔いも手伝ってか、泰佑を無視してあからさまに希久美を口説き始める。希久美は笑いながら、部長をうまくあしらっていた。夜も更けて、泰佑がそろそろお開きと言うと、自分が希久美をホテルまで送って行くから先に帰れと言ってきかない。泰佑が希久美に一緒に帰るようにサインを送るが、今度も希久美は取り合わない。仕方なく泰佑はひとりでホテルへ戻ると心配でロビーで希久美を待った。  小一時間待っただろうか。やがて、部長と希久美がホテルにやってきた。部長は希久美の腰に手をまわし、千鳥足になっている。泰佑が見守っていると、部長はホテルのエントランスで、希久美に彼女の部屋で飲み直そうと駄々をこねている様子がわかった。希久美が笑いながら拒んでいると、いきなり部長は希久美の身体を抱き寄せキスをした。見ていた泰佑の怒りが爆発した。希久美を助けようと駆け寄る泰佑に気付いた希久美は、目で泰佑を制する。 「あら、部長。酔っぱらっちゃって、奥さんと私の区別もつかないんですかぁ。東京の奥さんが恋しいんだ。さあ、早く帰って奥さんの夢でも見ましょ。」
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加