オキクの復讐

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 そんな部長にも怒ることもなく希久美は、おやすみなさいと部長の背中を押した。部長は諦めて家に向かってふらふら歩き始めた。その後ろ姿を見送る希久美に、泰佑が近寄っていった。 「大丈夫か?オキク」 「別に…。仕事をしている女には、よくあることよ。」 「よくあること?」 「不愉快だけれど、ウブな女子高生でもあるまいし、蚊に刺されたほどでもないわ。」  希久美は、自分の横顔を見つめる泰佑の視線を意識した。やがて泰佑が口を開く。 「しかしあの部長、キャリアだか何だか知らないけど、最低だな。」  そう言うお前も同じだ。しかも泰佑から受けたダメージは、間違っても蚊に刺された程度とは言えないものだった。胸に込み上げてきた言葉を吐き出したい気持ちを押さえ、希久美は話題を変える。 「帰りの便は押さえた?」 「ああ。」 「なら、朝フロントで待ち合わせましょう。疲れたから休むわ」  希久美はエレベーターに向かいながら、彼女をじっと見送るだけで一緒にエレベーターに乗り込まない泰佑を不思議に思った。  翌朝、フロントで泰佑と待ち合わせ、タクシーに乗り込んだものの、希久美はいつまでも見知らぬ道を走り続けるタクシーに心配になって聞いた。 「ねえ泰佑。このタクシー空港へ向かってるの?」 「いや…。朝一の便が取れなかったので、ちょっと寄り道することにした。」  泰佑は車のシートに悠々と腰掛け、平然と答える。 「何を勝手なこと言ってるの!あたしは帰ってやらなくちゃいけないことが、いっぱいあるのよ。」  騒ぎまくる希久美に構わず車はその進路を変えようとしない。希久美が航空便の空席確認をしようとバッグからとりだしたスマートフォンを、泰佑はやすやすと取り上げた。 「なんてことするの!返して!」  掴みかかる希久美に泰佑は抵抗もせず、しかし動こうともせず平然と構えていた。 「泰佑!私を拉致ってどうするつもり!」  希久美は10年前を思い出して怖くなった。やがて、タクシーが鳥取砂丘の入口に着くと、泰佑は希久美を無理やり降ろしタクシーを帰してしまう。 「あたしもう嫌!なんであんたとこんなところに来なきゃならないの?」  泰佑に悪態をついて、希久美は歩道にしゃがみ込む。それを見た泰佑は、今だとばかり希久美の足元に飛びついた。 「何するのよ!」  泰佑が、今度は希久美の靴を取り上げてしまったのだ。裸足になった希久美の悪態が一層激しくなる。
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