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「さて、次は?」
「えっ、まだあり?」
「まだまだ。」
「そしたら…やっぱり座りたいかな。」
今度は5歩ほど離れた砂を掘り始め、折りたたみのデッキチェアと小さなサイドテーブルを掘り出した。椅子に座った希久美の顔も、今では、驚き顔から笑顔の呆れ顔に変化している。なんとなく楽しくなってきているようだ。
「まだ、あり?」
「まだまだ。」
「なんか、飲みたーい!」
泰佑はまた掘りはじめる。今度はクーラーボックスを掘りだした。クーラーボックスから冷やしたグラスを取りだすと透明な深紅色のカクテルを注ぐ。希久美の大好きなカシスソーダだった。
「まだまだ、あり?」
「まだまだまだ。」
「お金が欲しーい!」
「馬鹿、それは無い。」
しかし泰佑は、クーラーボックスを掘りだした位置から西へ正確に歩測すると、今度はそこからビニール袋を掘りだした。袋には植田正治写真集『:吹き抜ける風』とサングラスが入っていた。
「砂のイリュージョン。」
「幻想的というほど美しくもないわ。」
「残念…。」
「でも、確かに想定外ではあるわね。」
「想定外っていうのも、楽しいだろう?」
「と言うか…泰佑、山陰海岸国立公園でこんなことして大丈夫なの?」
「広報用の撮影の下見だと言って県の観光課に口を聞いてもらった。」
泰佑はもうひとつのデッキチェアを掘りだしている。
「許可をもらった場所だから大丈夫。」
「あきれた…。」
「余計なことだが…。」
泰佑も自らも掘りだしたデッキチェアに横になりながら、言葉を続けた。
「オキクは昼食を取りながら、晩ご飯の献立を心配しているような時がある。」
「だから何よ。」
「別に…。」
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