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「自分は、今日の青沼さんが可愛くないと、ひとことも言ってませんよ。」
「私、可愛いですか?」
石嶋は、あけすけな希久美の突っ込みに、一瞬言葉を失った。
「そうは思っていても、まだお付き合いの浅い自分ですから…。青沼さんのように自立した女性を軽々しく可愛いと言うのは失礼な気がします。」
「上手く逃げましたね。では、質問を変えます。どんな時に、女性を可愛いと思います?」
石嶋は、『可愛いい』という言葉に、ユカを連想した。ユカは今頃何をしているんだろう。泰佑のことだから、心配はないと思うが。
「やすらかな寝顔を、間近で見守っている時ですかね。」
希久美は、石嶋の言葉に鳥取砂丘の遠い空を思い、胸に妙な高鳴りを覚えた。一方、石嶋は自分の答えを聞いて黙ってしまった希久美を見て、自分の答えが彼女の期待にそえなかったのかと危ぶんだ。しかしそれでも、希久美との何度目かのデートで、ようやく艶のある会話に持ちこめたことが嬉しくもあった。
テラス席のあるカフェ。ケーキを食べ終わったユカは、扱いにくいと文句を言いながらも必死に自分の髪を編んでくれるテレサが、新しいお友達として気に入っているようだ。ナミは、疑いをかけた失礼を詫びながら、泰佑の相手をしていた。
「ユカちゃんからは、何と呼ばれているんですか?」
「タイ叔父さん、です。」
「あら、ヒロパパに、タイ叔父さんですか…。」
笑い出すナミに、泰佑は憮然とした。
「おかしいですか?」
「いえ、ごめんなさい。ユカちゃんの周りには、素敵な男性がたくさんいるから、うらやましいんです。」
石嶋がユカを預けるくらいだからきっと信用できる人なんだろう。ナミは言葉少なで無愛想ではあるがこの男性にも好感が持てた。しばらく黙って、ユカとテレサを見守っていたふたりであったが、泰佑が重い口を開いた。
「さきほど主治医とおっしゃってましたが…。」
「ええ、こう見えても小児科の医師ですよ。」
「そうですか…。ひとつ聞いてもいいですか?」
「ここで診察は無理ですよ。」
笑って冗談を言うナミにも、泰佑はにこりともせず真剣に言葉を続ける。
「いや…。昔から疑問だったのですが、何歳までが小児科の診療対象年齢なんですか?」
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