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「みなさんよく聞かれます。別に大人を診てはいけないと言う決まりはないのですよ。タイ叔父さんも、私のところに来て頂いてもかまわないんです。ただし周りが子供ばっかりだから、居づらいでしょうけど…。つまり、対象年齢は、私が決めるのではなくて、患者さんが決めるんですね。」
「そういうことですか…。」
「それに、小児科なんて名前にしたから、内科、外科の関係なくこども達はやってきます。だから幅広く対応するための勉強は不可欠なんです。例えば、私は病院では精神科医としての診察もできるんですよ。」
泰佑は、今度はナミを見つめて黙ってうなずくだけだった。また、しばらくの沈黙の後。
「あの…。今度病院にご相談に行っても…。」
ようやく泰佑の口から出た言葉はあまりにも小さく、ユカに飛び付かれたナミの耳には届かなかったようだ。テレサと交代して、今度はナミがユカと遊ぶ。テレサはすれ違いざま、小声でナミの耳元で囁いた。
「いつまでもいい男を独占してるんじゃないわよ。私にもチャンス頂戴!」
テレサはユカのお相手に疲れたように振舞いながら、図々しく泰佑の横に腰掛けた。
「ユカちゃんは可愛いですよね。」
テレサが、少し泰佑の方にすり寄った。
「…私もユカちゃんの年の頃は、お人形さんみたいに可愛いって、よく言われてたんです。」
泰佑は何の反応も示さなかった。
「私の名はテレサっていうんですけど…、タイ叔父さんの下のお名前を、聞かせてもらえません?」
泰佑は、暴走気味に話しかけてくるテレサを珍しいものを見るかのように眺めた。
「なんでそんなことを?」
「できれば、タイ叔父さんではなくて、下のお名前でお呼びしたくて。」
「勘弁してください…。」
「えっ、だめですか?どうして?私のこともテレサって呼んでもいいですから…。」
泰佑は食い下がるテレサには一切取り合うことがなかった。
希久美が家に戻ると、ソファーに寝そべってゴルフ中継を見ていた義父が、半身を起こして彼女を迎えた。
「早いな。石嶋君とデートだったんろう?」
希久美は、ソファーに足を投げ出して乱暴に座った。義父のつまみを横取りし、口に投げ入れながら答える。
「石嶋さんは、夕方には家に戻らなきゃならないそうよ。」
「なんだ、ディナーは無しか?」
「雨も降ってきたし、早めの解散は正解ね。」
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