オキクの復讐

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 希久美は、今度は義父のビールグラスを横取りして、豪快に喉を鳴らして飲んだ。 「ところでどうだ、石嶋君の印象は?」 「別に、良くもなく、悪くもなくってとこかしら。」 「俺は、お似合いだと思うんだがな…。」 「でもね。なんかトキメキがなくてね。」 「偉そうに…。今まで男にトキメイたことなんかあるのか?」 「あったわよ。お義父さんに初めて会った時。」 「ばか言うな。」  ニヤつきながら枝豆を口に運ぶ義父。冗談だとわかっていても、娘からそう言われると相好が崩れるのは父親の常なのだ。 「もうトキメキがどうだとか言っている年じゃないだろう。そんなことより、この後一生付き合える相性の方が大切じゃないのか。」 「はいはい。お母さん、お義父さんがもっと枝豆欲しいそうよ!」  希久美は、空の皿を口実に、キッチンへ退散した。  タクシーのフロントガラスにあたる雨を、ワイパーが忙しく払っていたが、段々強くなる雨足に、視界も危うくなってきた。ナミがタクシーを玄関に横づけすると、そこではすでに石嶋が傘を開いて待っていた。石嶋はタクシーの運転手に料金を払い、濡れないように傘を差し出しナミを家に導いた。 「ナミ先生。こんな時間に電話してしまってすみません。」  テレサとショットバーで飲んでいたナミだったが、そろそろ帰ろうかとしたところで、携帯が鳴った。 「どうしていいかわからなくて…。」 「ちょうど家に帰るところだったからいいんです。ユカちゃんを診ましょう。会った時はなんでもなかったけど…。」  ユカの急な発熱に慌てて、アドバイスを求めてナミに電話したのは石嶋だったが、家にまで行って診ようと申し出たのはナミの方だった。果たして、ゆかは小さなベッドの上で、ぐったりしていた。しかし、ナミが来たことがわかると、喜んで半身を起こし抱っこをせがんだ。ナミは、額や首筋をなぜながら触診で熱を確認し、ベッドの上でユカを腕の中に抱きかかえる。その姿勢で、体温計で熱を測り、眼やのどをペンライトで照らして見て、心配そうに見守る石嶋に言った。 「確かにお熱は高いですが、その他の異常なところは見られません。汗もかいているようですから、とにかく今は、かたく絞ったタオルで身体を拭いて着替えさせてあげましょう。先日処方した解熱剤は、まだ残っていますか?」
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