オキクの復讐

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 ユカのベッドの上から矢継ぎ早にナミは指示を出す。石嶋はバタバタしながら対応した。石嶋が用意したタオルと着替えをナミが受取りユカの身体を拭こうとしたが、その場でじっと見守る石嶋に、ナミが言う。 「紳士はレディの着替えを眺めたりしないものですよ。」 「えっ?自分はユカの保護者ですが…。」 「やあねぇ、ユカちゃん。ヒロパパったら、デリカシーがないわよね。」  ユカにそう語りかけるナミに、石嶋も何かばつが悪くなり子供部屋から出た。ドア越しから、ユカとナミがなにやら話している声が聞こえたが、声が小さくその内容までは知ることができない。薬を持ってドアの外に立っていたが、しばらくしてもお呼び掛からないので、焦れた石嶋がドアをノックする。 「ナミ先生。薬を持ってきましたが…。」 「ああ、お薬ですか。もう必要ないみたいです。しばらくふたりにしておいてもらえますか。」 「しかし…。」 「ユカちゃんと私の為に、温かくて甘い飲み物でも作ってください。」  石嶋は仕方なく台所に退く。確かココアがあったはずだ。ココアなど作ったことがない石嶋だが、ようやく探し当てたココアの缶を握りしめて考えた。ユカは家政婦が休みの日に限って熱を出す。あれ、ココアを溶かすのは、水か?ミルクか?屋根のひさしをたたく雨音が激しくなった。外の雨は強さを増しているようだ。今夜は、ナミ先生が来てくれて助かった。こんな嵐のような雨の夜に、診てくれる病院を求めてユカを連れ回ることは出来なかった。ところで砂糖は入れなくていいのか?それにしても、ユカはたびたび熱を出す。この前は、風邪だったようだが、今日はそんな予兆もなかった。ユカはこんなにナイーブだったかな。少なくとも兄貴夫婦が生きていた頃はそんな話は聞かなかった。ココアらしき色に仕上がった液体を、マグカップにサーブして、石嶋は子供部屋に向かった。その時だ。ぴかっと閃光が走ると、しばらくして空気を切り裂くような落雷の音が轟音となって響く。 「キャー!」  子供部屋の中から、ユカとナミの叫ぶ声が聞こえた。慌てて、子供部屋に飛び込むと、ベッドの上でユカとナミが抱き合いながら震えている。 「どうしたんです!」  驚いて問いかける石嶋に、ナミが震える声で答えた。 「私、雷は大の苦手なんです。ひっ!光った!」  また、雷が落ちた。ベッドの上のふたりは一層力を込めて抱き合っている。
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