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やがて、雷も遠ざかると、石嶋は被っていた布団を退けた。ナミが未練のある表情で石嶋から身を離し、腕の中のユカを見るといつのまにか寝息を立てている。ユカの熱を測ると、平温に下がっていた。ユカをベッドに残し、ナミと石嶋はリビングへ降りた。
「今日は、本当にありがとうございました。」
「いいえ、こんなひどい雷の夜ですから、ひとりじゃなくてよかったです。…あのおまじないの話しホントですか?」
「ええ、雷が鳴ると母は兄と自分を呼んで、肩を組みながら布団をかぶるんです。」
「そしてあの呪文ですか?」
「効きませんでしたが?」
「効果てきめんでした。科学者のはしくれである自分としては、認めにくいですが…、」
確かに雷への恐怖心をしばし忘れてしまったのだが、それが呪文の効果なのか、息の温度が感じられるほどの距離にいる石嶋の効果であったのか、ナミには良くわかっていた。ここでまさか石嶋のお陰ですと言えるわけもない。
「ココア作ったんですが、冷めてしまったから温めましょうか?」
「ええ、お願いします。」
石嶋はマグカップを電子レンジに入れながら、ユカの容体を聞いた。
「今回も風邪なんでしょうか?」
「いえ、風邪の症状は見られませんでした。それに、着替えて私と話したら熱は下がったんですよ。」
「そうですか…。」
石嶋は、電子レンジからマグカップを取り出しナミの前に置いた。ナミがココアを一口すする。
「うえっ、まず!なんですかこの泥水は?」
「えっ、ココアになってません?色はココアなんだけどな…。」
慌てる石嶋をナミは笑って慰めた。あらためてお茶を準備する石嶋だったが、キッチンでドタバタするその手際の悪さに、さすがにナミも可哀想になって彼から茶器を奪い取る。
「いいですよ。私がやりますから。」
石嶋はリビングから、てきぱきとお茶の準備をするナミの様子を眺めていた。このキッチンでナミのような若い女性が働く姿を眺めるのは初めてのことだ。このひとときに妙なくつろぎを感じてしまう石嶋だったが、キッチンで立ち働く女性はユカの主治医であったことを思い出し、慌ててみずからの妄想を打ち消して、質問を続けた。
「最近、ユカが訳もわからず熱を出すことが多くて…。どうしてなんでしょうか。」
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