オキクの復讐

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 ナミがお盆に急須と茶碗を乗せてリビングのソファーに戻って来た。ナミが慣れた手つきでお茶を注いでくれる。石嶋は、その仕草があまりにも白くしなやかなので、舞を見ているような錯覚に陥っていた。 「ヒロパパは、ストレス性高体温症というのをご存知ですか?」  ナミに問いかけられ、石嶋は我に帰る。 「いえ初めて聞きます。」 「いくつかのストレスが重なった状況で、熱が出るようになり、なかなか下がらない。さらに病院で検査を受けても異常がないと言われるが、解熱剤でも熱が下がらない。そんな場合は、心因性発熱が疑われます。これを一般的にはストレス性高体温症と呼ぶんです。子供に見られるケースは、大きなストレスによって急激に高体温が生じるものの、回復も早いタイプのものが多いです。すぐ解熱しますが、ストレスの原因を解決しないと何度も繰り返すことがあります。」  ナミの話しを聞き入っていた石嶋が言った。 「では、ナミ先生は、ユカになにか強いストレスがあるとお考えですか?」 「はっきりとはわかりませんが…。」 「やはり両親がいないことが、ストレスになっているのでしょうか?」 「今夜、熱が出る前になにか覚えはありますか。」  石嶋は、温かい茶碗を手の中でまわしながら考えた。 「いえ、帰ってきてからユカとずっと一緒でしたが、思い当たることはないです。」 「なにかお話されました?」 「ああ、今日はナミ先生や新しいお友達と遊べたのに、なんでヒロパパは、一緒じゃなかったんだと聞かれて…。」 「それでなんと答えたんです?」  あくまでも医師としてのカウンセリングであって、個人的な興味で聞いているんじゃないと言い聞かせながら、ナミは石嶋へ突っ込んだヒヤリングを続ける。石嶋はしばらく答えを躊躇していたが、ユカのためだとあきらめて重たい口を開く。 「実は、女の人と会っていたと…。」 「えっ、ユカちゃんを友達に預けて、デートですか?」 「いえ、別にそんな…。」 「仕事ならまだしも、休みの日ぐらい一緒に過ごしたいユカちゃんを置いて、ひとりだけ楽しくデートですかっ?」 「いや…だから…。」 「ひどくありません?ユカちゃんが熱でるのも仕方ないわ!」 「ちょっと待ってください。なんで、そんなに怒るんですか?自分の話も聞いてください。」 「私、帰ります。失礼します。」  バッグを持って立ち上がるナミに、石嶋はおろおろしながら玄関までついていく。
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