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青沼希久美は、夜景の良く見えるホテルの高級レストランにいた。食事をしながら、誘われた彼に今日の日の意味を説明していたのだ。
「バレンタインデーが一般的になる前、つまりローマ帝国の時代、2月14日は家庭と結婚の女神ユノの祝日だったの。でもローマ帝国の兵士はこの日を祝えなかった。当時ローマ帝王は士気が下がると言う理由で兵士の婚姻を禁じていたの。」
ふたりのテーブルに食後のコーヒーが運ばれてきた。
「しかしキリスト教の司祭だったバレンタティヌスは、兵士たちを哀れに思い、愛を知った兵士を秘密に結婚させてあげていたの。しかし、それを知ったローマ帝王は、怒って彼を捕まえ、見せしめのためわざわざ女神ユノの記念日を選んで彼を処刑した…。」
彼が希久美のコーヒーカップの横に、ホテルのルームキーを置いた。希久美は、そのキーを指でもてあそびながら言葉を続けた。
「歴史や由来を知ると、この日が男女の愛の誓いの日だと言うことは納得できる話なんだけど…。私にしてみればこの日は、男女の愛の誓いを押しつけたお節介な男の処刑の日としか思えないわ。」
希久美は、キーを彼のコーヒーカップの中に投げ込むと、ハンドバッグを持って席を立った。
「ごめん。もう会わない。」
出口へ向かう希久美だが、思い出したように立ち止まると、あっけにとられる彼に最後の言葉を投げかける。
「今夜のあなたのメニューチョイスはいただけないわね。ちなみにこのレストランのお勧めは、ズワイガニと生のりのリゾットで、加能ガニを取り寄せる関係上、前日までに予約しなければ食べられないの。思いつきで女を連れてこない方がいいわよ。」
シオサイトにあるランチバイキングの店に集結した元女子高生3人。プレートに、こぼれんばかりの惣菜を載せながらナミが言った。
「オキクもお母さんが再婚してから変ったわよね。」
「そう、苗字が『青沼』に変わったと思ったら、下の名前まで変えちゃうし…。」
「それまでの自分を帳消しにしたかったの。」
テレサがプチトマトを素手で口に入れながら、希久美に話し続ける。
「お義父さんが、会社役員で、しかもお金持ちだからここまで変われたのよ。」
「そうかしら…。」
「教育と美容に惜しげもなくお金かけられたし、一流広告代理店に強力なコネもあったし…。」
「全部お義父さんのおかげというわけでもないわよ。もともと素質があったの。美貌も仕事もね。」
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