オキクの復讐

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「ちっ、私って馬鹿ね。ここまでする必要があるのかしら…。」  希久美は泰佑の汚れたシャツを脱がせ、靴下を脱がせ、やり過ぎとは思ったものの、目をつぶってズボンも脱がせて、そして身体に毛布を掛けてあげた。汚れた衣服を丸めながら、あらためて泰佑の部屋を眺めまわした。 「なにが、『スポーツは別に何も…』よ。」  棚の特等席には、使い古されたミットとボールが飾ってあった。バーボンの空き瓶。洋物のビールの空き缶。結構年代物のアコースティックギター。訳のわからないブリキのバッチの数々。バイクのヘルメットと皮のジャンパー。そんな雑貨が部屋に散らばる。これが男の部屋か。なんか汚いような楽しいような、妙な感じだ。壁に作りつけの本棚を見ると、泰佑も結構新刊書を読んでいる事がわかる。ふと、本棚の奥に、自分も見覚えのある高校の卒業記念アルバムを発見した。 「キャー、懐かしい…。」  アルバムをめくって写真を眺めると、当時の学園風景が蘇る。さっそく泰佑の学級のページを探した。いた。当時、2年近くも遠目で追っかけていた泰佑がそこにいた。今ベッドで唸っている泰佑と見比べた。まさか10年後に、本人の部屋でベッドに横たわる泰佑を間近に眺めるなんて、想像できたであろうか。アルバムをめくっていると、ピンクの封筒がひらりと落ちた。何かと思って拾い上げて、希久美は愕然とした。10年前、昼休みに泰佑に渡した希久美のラブレターだったのだ。 「こいつ、なんでまだ持ってるの?」  女を路上の石ころとしか考えない男にしては、もの持ちが良すぎる。考えてみれば、この手紙を渡したことが、自分の一生の不覚だったのだ。希久美は、ラブレターを抜き取り、自分のハンドバックに仕舞い込んだ。 「青沼さん、大丈夫ですかー。」  祖母が希久美を呼ぶ声が、下から聞こえてきた。 「はーい。」  希久美は、しばらく本棚の前にとどまった後、アルバムを元に戻して汚れた衣服とともに下へ降りていった。  降りてみると、居間の食卓の上に、山のように剥かれた果物が盛られている。驚く希久美に、にこにこしながらお茶をいれて祖母が言った。 「まさか、このまますぐお帰りになるなんて、いわないわよね。」 「でも、そんなにおじゃまするわけには…。」 「いいじゃないですか。泰佑が女の方をお連れするなんて、初めてのことなんですから。」 「だから、わたしは連れてこられたんじゃなくて…。」
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