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「同じ事ですよ。泰佑がお付き合いさせていただいている女の方と、この家でおしゃべりできるなんて、夢のようだわ。今までの泰佑は本当に女の方と縁がなくてね…。」
希久美にとっては、意外な情報だった。
「嘘でしょ。泰佑も結構いい男だから、会社の女の子に人気があるんですよ。」
「身うちが言うのも変ですけれど…。あれでいて、あの子優しい所があるから、女の方に好かれないとは、思ってないんですよ。だけど、本当に縁が無くて…。」
どこが優しいんだ。聞いてください、おばあちゃん。希久美は危うい所で言葉を飲みこんだ。
「きっと…、おばあちゃんの知らないところで女の子と遊んでますよ。」
「そうかしら…。そうだといいんですけど。小さい頃から決して女の子とは遊ばなかったのよ。そうだ、証拠の写真を見せてあげる。」
祖母は、部屋の奥に引っ込むと、古ぼけたアルバムを3冊ほど持ち出してきた。
「これが、泰佑が幼稚園の時でね…。」
祖母は、嬉しそうに泰佑の子供の頃の写真を披露して、希久美に当時の泰佑を解説した。幼稚園、小中学校。高校。男の子から少年へ。徐々に成長していく泰佑を肴に、ふたりは時間を忘れておしゃべりした。綿あめを手に大泣きしている泰佑の写真など、ふたりの格好の笑いネタになった。写真の泰佑は、野球をしている姿が多かったが、確かに女の子と遊んでいるとか、並んで映っているとかの写真は皆無である。希久美は加えて、絶対あるはずの写真。つまり母親と写っている写真がないことも気が付いた。
「これを見てくださる。」
祖母に促されて写真を見た。高校時代の泰佑が、私服でウインクをしている姿を玄関先で撮った写真だ。希久美は目を見張った。ここに写っている泰佑は、容姿も服も、10年前渋谷で会った泰佑そのものだったのだ。
「この日はね、朝からそわそわして…。珍しくめかしこんで出ていこうとしてたから、気になって撮っておいたの。今から考えれば、この時デートだったのかしら…。後にも先にも、こんなことは一切ないのよ。」
希久美は、答えようがなかった。
「女の方を好きになれない性質なのかと、本気で悩んでいたの。そうしたら、青沼さんを連れてきて来てくれたから…。」
「ばあちゃん、喋りすぎだよ!」
いつの間にか、毛布に包まった泰佑が、ふたりのそばに立っていた。
「おやまあ、泰佑や、いつの間に。具合はもういいのかい?」
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