オキクの復讐

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 笑いながら石嶋がそう言うと、ユカと遊ぶテレサに数々の質問を繰り出していった。希久美はハラハラしながらテレサと石嶋のやり取りを聞いていた。テレサの居座りに気が気ではない希久美だったが、一方では自己嫌悪に陥りながら、なにもなかったように石嶋と笑って話すのもしんどかったのも事実だ。とりあえすこの場を楽しく明るくしてくれるテレサを、無理に追い出す気にもなれなかった。  オキクのプロジェクト「米子コンベンションセンター開館記念事業」が、開幕された。開館記念事業と言っても、複合施設の全館を使用したフェスティバルを開催し、施設の使い方をプレゼンテーションすることにより、今後様々な分野の主催者から施設を活用してもらうことが狙いだ。開館記念事業のテーマは地域にも関連の深い『写真』だ。「米子国際フォトフェスティバル」のタイトルの基で、約1週間にわたり様々なプログラムが展開される。この企画で、希久美は営業の中心となって陣頭指揮を執った。泰佑は、希久美の副官としてクライアントに見られぬようトラブルを処理したり、裏で業務の進行を管理したり、時にはリスクヘッジのために人から嫌がれる仕事もしながら、事業の成功のために尽くした。あるプログラムでは、搬入計画のミスで設営が大幅に遅れる事態となった。徹夜作業になる会場に希久美がやってくると泰佑が言った。 「自分が見てるからオキクは帰って寝ろ。ふたりして疲弊してもしょうがない…。」  翌朝、会場へ行くと設営は無事終了しており、リハーサルがすでに始まっていた。希久美はクライアントを先導してリハーサルチェックに同行したが、完全な準備に安心したクライアントが、希久美に笑顔を向けて、本番もよろしくと声をかけてくれた。そのクライアントの肩越しに、現場のパイプ椅子で前夜と同じ服で仮眠を取っている泰佑を見た。
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