8人が本棚に入れています
本棚に追加
「あら、答えないつもりね。でも黙っても無駄よ。あたしの霊感が強いのは知ってるでしょう。ちょっとあんたの守護霊に聞いてみるわ…。」
「ち、ちょっと、怖いこと言わないでよ。」
ナミはそう言うと、そっぽを向いてグラスを煽る。テレサは眉間に軽く握ったこぶしを添え、何かを感じようと目を閉じていたが、やがて納得したように眼を開けた。
「ヒロパパでしょ。」
「な、なに言ってんのよ。やめてよ。」
「あんたの守護霊がはっきりそう言ったもの。図星でしょ。」
テレサの突っ込みに追い込まれたナミは、ワインの力を借りて逆切れをおこす。
「そうよ、だから何?悪い?」
テレサは、先日会った石嶋を思い出していた。ナミが惚れるのも無理がない。でも、今この席に希久美がいなくてよかった。ヒロパパの見合い相手が誰かわかったら、大混乱になっていたに違いない。
「ユカちゃんとヒロパパは私を先生って呼ぶのよ。名前で呼んでくれたことなんか一度もないわ。あっちはわたしを生身の女だとは見てないのよ。」
「好きだって言って、あなたもエントリーすればいいじゃない。」
「だめよ。向こうにはつきあっている女がいるみたいだから…。」
もちろん、テレサはその女が希久美であると言いだすことができない。
「夢でもいいから、『おまえ』なんて甘く呼ばれてみたい…。」
そう言いながらナミは、いつの間にか酔ってテーブルの上でだらしなく潰れてしまった。テレサは潰れたナミの髪を優しく撫ぜながら、高校時代はもっとクールだったはずのナミを憐れに見つめた。
「オキク。あんたには悪いけど、可愛そうなナミに夢を見させてあげて。たった一日でいいから…。」
テレサは、ナミの携帯をバッグから取り出すと、ナミになりすまして石嶋にメールを打った。
最初のコメントを投稿しよう!