オキクの復讐

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「ごめんなさい。私なんてご迷惑なことをしてしまったのかしら。すぐお暇しますから…。」 「いえ、そんなことおっしゃらず、今日は休日でしょ。ゆっくりしていって下さい。自分とユカは、朝のウオーキングがてら朝食の買い物に行ってきます。今日は家政婦さんも休みだから、たいしたこと出来ないけど、朝食を準備しますから。その間にシャワーでも浴びてはいかがですか。」  石嶋がユカを連れて外へ出ようとするが、ユカがナミの手を離さない。ナミにしてもこの家にひとり残されても、落ち着いて待っていることもできないだろう。 「お邪魔じゃなかったら、わたしもご一緒させて頂いてもいいかしら…。」 「えっ?そりゃあ自分もユカも大歓迎ですが、大酒飲んだ翌朝のウオーキングはキツイですよ…。」 「大丈夫です。」 「それなら確か…、義姉が使ってたジャージがあったな。」  石嶋が着替えを探しに奥に入って行った。ナミは、とりあえずハンドバックから携帯歯ブラシを取り出し、歯を磨くと、顔を洗って昨夜からの化粧を落とし、軽く肌を整える程度の朝の顔を作った。その間もユカがナミのそばにべったり張りつき、不思議そうにナミのやっている事を見つめていた。 「ユカちゃんそんな目で見ないで。女がスッピンでいられるのは、ユカちゃんの頃から女子高の年代までよ。私くらいの年になるとね…。」  石嶋が持ち出してきたジャージに着替えて、少し大きめだが、石嶋が昔使っていた運動靴も借りて準備は万端。3人はウオーキングに出発する。  必死に歩くナミであるが、そんな距離を歩いていないのにもう息が上がってきた。ユカに手を引かれながら、肩で大きく息をしながら歩く。石嶋はそんなふたりを笑顔で眺めながら、後方からゆっくりと歩いていた。 「おいユカ。ナミ先生が苦しそうだから、少し休むか。」  石嶋の配慮で、公園のベンチで一休み。石嶋はベンチのそばの砂場で遊んでいるユカを見守っている。ナミはそんな石嶋を見ながら、改めて自分の今の状況を考えてみた。目が覚めた時に自分のベッドの中に自分以外の誰かがいる朝。目覚めの直後に、コーヒーの湯気につつまれた男の顔に迎えられる朝。こんな朝は、未だかつて経験したことが無い。そしてなにより、休日の朝に、朝日に反射して光る石嶋の顔をひとり占めできることが、何と言っても嬉しかった。そう、夢のようだ。
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