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「ごめんなさい。かえって足手まといになっちゃって…。」
「いいえ、とんでもない。ナミ先生のおかげで、初めてあんなに楽しそうに歩くユカを見ました。」
ユカが嬉しそうに石嶋とナミに手を振る。ナミも笑顔で応えた。
「ところでヒロパパ。ゆうべはなんで私がいるところがわかったの。」
「えっ、それも覚えてないんですか?メールくれたじゃないですか。」
自分は打った覚えが無い。テレサの奴めやりやがったな…。あんな話をしたもんだから、テレサが気をきかしたのだろう。でもこんな状況を作ってくれても、付き合っている人がいる男相手に、いい大人がコクルなんて出来るわけがない。
「さあ、ナミ先生。この後はスーパーに買い物ですが、歩けますか。おなかも空いたし、朝ご飯を買って家で食べましょう。」
そう言いながらナミを見た石嶋の笑顔が、輝いていた。石嶋がベンチから立ちあがる。ナミはその姿をベンチから見上げた。長身でありながらバランスのとれた体躯は、ナミにあらためて男のセクシーな美しさを感じさせる。ナミは考えた。でももしかしたら、たった一日だけなら夢をみることが許されるかもしれない。
「あの…。ご迷惑をかけたお詫びに朝ご飯は私が作ります。」
「いいんですか?楽しみだな。」
「それから…。ヒロパパはハングル語をご存知ですか?」
「いえ、さっぱりわかりませんが。なんでですか?」
「スーパーで朝からヒロパパ、ナミ先生って名前を呼び合うのも変ですから、今日だけ、お互い『ヨボ』って言い合うことにしません。」
「どういう意味なんですか?」
ナミは顔を赤らめながら答えた。
「まあ、英語の『ユー』みたいなもんです…。」
実は、この答えはまったくの嘘だ。ナミは韓国ドラマでよく耳にするこの言葉に憧れていた。意味は慈しみ合う夫婦がお互いを呼ぶ言葉で、日本語で近い意味は『あなた、お前』なのだ。
「ヨボか…。面白いな。では行きましょうか、ヨボ。」
「そうしますか、ヨボ。」
ナミの夢の一日が始まった。買い物カートにユカを乗せてスーパーでお買いもの。ナミが食材を
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