オキクの復讐

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 まだ夜が明けていない休日の朝。今日は泰佑への復讐が完結する日。半年以上にもわたる努力の成果が今日試されるのだ。希久美は正直昨夜から寝られなかった。それは、いよいよ復讐成就への興奮からくるものなのだろうが、興奮の理由がすべてそれかと言うと、後になってみると首を傾げざるを得ない。興奮の中に若干のデートへの期待感が混じっているのに、その時の希久美は気付くことができなかった。したがってベッドに入っていても寝ることができず、まだ約束の時間にもなっていないのに待ち合わせ場所の歩道で立っていた。やがて、一台の車のライトが希久美の姿を照らした。泰佑があくびをしながら、車から出てきた。 「オキク。夜明け前集合なんて、いくらなんでも早すぎないか。」 「文句言わないの。」 「俺にレンタカー借りさせて、どうするんだ?」 「私がナビゲーターをするから、今日は言う通りに動くのよ。わかった?」 「今日も…だろ。まあいいけど…これでいったいなにがお礼になるんだ?」 「お礼に、私が今日一日泰佑の恋人になってあげる。」  希久美の言葉に、泰佑も目が覚めたようだ。希久美をまじまじと眺めた。 「泰佑は女の人が苦手だから、恋人いないんでしょ。当然甘いデートもしたことがないわけだから、経験させてあげるわ。」  絶句する泰佑。やっと絞り出した声は、震えていた。 「オキク、裏があるだろ。」 「なんで怯えてるの?今日は私が恋人になって泰佑にベタベタしてあげるって言ってるのよ。そのかわり、泰佑から私を触ったら殴るわよ。」 「やっぱり俺にトドメを指す気なんだ。」 「泰佑がおとなしくしてれば、そんなことしないわよ。さあ、出発しましょ。」  希久美は早速泰佑の腕を取り車に乗り込んだ。泰佑は、マクドナルドのドライブスルーで買ったコーヒーを、おそるおそる助手席にすわる希久美に渡す。希久美は、差し出す泰佑の手を両手で包みながらカップを受け取り、甘い声で言った。 「気が利くわね。ありがと、タ・イ・ス・ケ」  初めて聞く希久美の甘いトーンの声に、泰佑の総身に鳥肌が立つ。泰佑は、まとわりつく希久美の声を振り払うように、とにかくアクセルを踏んだ。  最初の希久美の指定は、レインボーブリッジだった。休日の夜明け前、さすがに車がまばらな道を軽快に飛ばす。 「ちょっと、飛ばし過ぎよ。」 「そんなに乱暴な運転はしてないけど…。」 「ちょっとここで止めて!」
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