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「なんでこんなところで?」
「これじゃ、早く着きすぎちゃうのよ。」
「時間調整?なぜ?」
希久美は何も答えない。仕方が無いので泰佑はシートを倒して目をつぶる。慢性的な睡眠不足の泰佑に心地よい睡眠の入口が見え始めた頃、無情にも希久美は彼をたたき起こす。
「泰佑、起きなさい!今よ!」
寝込みを襲われた泰佑は、希久美の指示にわけもわからず車をスタートさせた。そして、ちょうどレインボーブリッジにさしかかった頃、日の出が始まった。朝日を反射させてまばゆく光る東京湾。朝日に照らされて、長い影を落とす高層ビルの群れ。
「うわぁー、やっぱり綺麗よね。」
希久美は紅潮した頬を車窓からの風にさらしながら、一心に景色を眺めている。
「オキクの時間調整の目的はこれか…。」
泰佑は眩しい朝日で逆光になり、シルエットでしか見えない彼女の後ろ姿を見ながら、希久美の長いまつ毛が風に揺れてきらきらと輝いてる様を想像した。
朝食は、徐々に明るくなっていく台場海浜公園のオールナイトカフェで摂った。希久美は泰佑の横の席に座る。ふたりは黙って、朝が始まり、街が目覚めていく様子を眺めていたが、やがて希久美が自分の頭を泰佑の肩にのせた。希久美の髪が、泰佑の頬に当たった。
「わたし、世の中に平等なんて存在しないものと思ってたのよ。」
泰佑は黙って、希久美の髪の香りを吸い込みながら、街の朝に見入っていた。
「でもね、街の朝を見ると時々思うの…。朝になれば、貧しい家にも、お金持ちの家にも…すべての人の家に朝日が降り注ぐじゃない。なんか、平等ってこういうことなんだなって感じがしたの。」
「そうかな…。」
「たとえ悪い奴でも、朝になればいい奴と同様に朝日が当ってしまうのよね。」
「いてっ、なんでつねるんだよ。」
「なんか、この絶対的平等ってやつに腹が立つのよ。」
「それが俺となんの関係があるの?」
「知ってた?恋人は一番近くに居る相手だから、時にはこういう理不尽な目にも遭わなければいけないの。」
「だから、恋人なんて頼んでないから…。」
「さて、次へ行く時間ね。」
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