オキクの復讐

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「今日から新しいメンバーが加わることになったので紹介する。」  室長は、横についていた青年に自己紹介を促した。 「はじめまして、石津です。よろしくお願いいたします。」  名前を聞いた希久美は開けた口から心臓が飛び出そうになった。 「えーと、こちらが斉藤ルーム長、そして…。」  室長がひとりひとりを紹介し始めた。泰佑は、室長の後を、礼をしながらついていった。希久美は、挨拶して回る男が本当にあの悪党であるかどうかを確認するために姿を目で追った。自分に近づくに従い、確信するようになった。大人びてはいたものの、確かに顔の輪郭とつくりは高校時代に希久美が目で追っていた彼のものであり、そしてその声は、ラブレターを渡した時に聞き覚えたそのものだった。信じられない。こいつは本当にあの石津先輩だ。胃液が逆流した。希久美は10年たった今でも、決して薄れることのない怒りを自覚した。 「それから、こちらが、田島ルーム長、そして、山田くん、深江くん、そして…。」  息が苦しい。希久美は心臓が肥大し、肺を圧迫しているような気分になった。自然にこぶしに力が入り、持っていたボールペンが砕けた。お産の時でもこんなに力むことは無いかもしれない。いよいよ室長と泰佑が、希久美の前に来た。もしもう半歩近づいていたら、確実に飛びかかっていただろう。 「彼女が、青沼くんだ。」 「よろしくお願いします。」  泰佑は、希久美の顔を見ながら軽く会釈した。 「青沼くん、大丈夫か?顔色が良くないが…。」 「たかが生理ですから、気にしないでください。」  室長の問いかけに投げ捨てるように返事を返す。 「そうか…。」  聞いてはいけないことを聞いてしまったような気分になった室長は、これもセクハラになるのかどうか悩みながら、泰佑を引き連れてもとの位置に戻った。 「石津くんには、当面斉藤ルームで財団関係を担当してもらう。」 「みなさん、よろしくお願いいたします。」  希久美は、深々と頭を下げる泰佑をにらみ続けた。彼はことさら希久美を見返す様子はない。あいつは、気づいていないのか?それともふりをしているのか? いや、雑草を踏むがごとくバージンを奪い去った私のことなんか、とっくに記憶にないに違いない。永久に格納するはずだった古い記憶が鮮やかに蘇り、得体のしれない感情が高速で渦を巻く。頭の中でドラム缶を叩くような音がガンガン鳴り響いた。
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