オキクの復讐

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 泰佑はぶつぶつ言いながらも、膝の上で寝がえりを打ち希久美のおなかに顔をうずめた。希久美の息に合わせて呼吸していくうちに、いつしか眠りの園に入って行ったようだった。希久美は、泰佑の寝顔を見守りながら、今日1日を振り返っていた。実は、TDLのパレードを含めて、この忙しいデートプランのひとつひとつが、高校時代、毎夜石津先輩にラブレターを書きながら、一緒にできればと夢想したものだったのだ。その夢を今日1日で一気に叶えた。実はこれは、希久美なりの復讐の一環ではあったのだが、その一つ一つの場面で見せた泰佑の反応が、まさに希久美が願った通りの反応であったことが嬉しかった。三田では、駐車監視員の登場に慌てた泰佑が、車道の縁石に足を引っ掛け、無様につまずくなんておまけまで付けてくれた。  考えてみると、今の泰佑は高校時代の石津先輩より子供に見える。身体はだいぶ大人になっているのになぜそんな感じがするんだろう。希久美は泰佑の髪をなぜながらしばらく考えていた。そうか、泰佑があの頃から変わらないのに、自分が大人になってしまったからそう感じるんだ。わたしは高校時代の石津先輩の仕打ちを含めて、母親の再婚、就職、様々な男の人たちとのお付き合いなどを経験し、今ではすっかり大人の女になってしまった。泰佑も同様なことがあったはずなのに、なぜかあの頃からこころの成長が止まっているようだ。  デートの待ち合わせ場所で石津先輩の私服姿を初めて見た時、仕事場で意欲的に動く泰佑の姿を見た時、希久美はその姿に男としての強いオーラを感じた。しかし今自分は、膝の上で寝息を立てているこの男を可愛いと感じている。いかん、いかん。希久美は慌てて首を振る。この男に可愛いなんて感情を持ってはいけない。所詮この男は、いたいけな女子高校生の処女を無理やり奪って、その日に捨てるような悪党なんだから。希久美は膝の上にある泰佑の頭を乱暴に投げ捨てた。 「いてっ、なんだよ急に。」 「もうすぐ始まるわよ。」 「だからって、この起こし方はないだろう。さっきから、優しくしたり、乱暴になったり…。」 「そう言う気まぐれが許されるから恋人なのよ。」 「恋人ってのは面倒だなぁ。」
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