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やがて、リズミカルにストリートの明かりが消え、楽しい電子音とともにパレードがスタートした。無数のライトに彩られた美しさと楽しさで、興奮気味にパレードを見つめる希久美の瞳に、様々な色のライトが反射してキラキラと光っている。泰佑は恋人を持つと面倒だけど、案外悪いもんじゃないなと感じ始めていた。泰佑は殴られるのを覚悟で、おそるおそる希久美の手を握った。希久美から何の反撃もなかった。しかも意外なことに、希久美はその手を優しく握り返してきたのだった。
「だから私言ってやったの、勘違いもほどほどにしなさいって。そしたらそいつ泣き始めてさ、ハハハハ。」
TDLを出た後、近くのシェラトンホテルでふたりは食事を摂っていた。希久美は話すテンションが上がっている。
「しかし…。オキク、運転で酒が飲めない俺の前で、よくまあそんなに飲めるよな。」
「いいでしょ、楽しいんだから。」
実際、希久美は飲まずには居られなかった。いよいよ復讐のクライマックスを迎えようとしている今、素面では最後の局面に突入できそうにない。
「泰佑は泣いたことないの?」
「そうだな…。泣いた記憶が無い。」
「そうよね、高校の最後の試合でも泣かなかったものね。」
「なんか言った。」
「いいえ、何にも…。」
「でも友達に、テレビの『水戸黄門』で毎回泣いているやつがいたよ。なあオキク、『水戸黄門』観て泣けるか。信じられないよ。笑っちゃうよな。」
急に希久美が黙り込んだ。いきなり場の空気が変わって泰佑が慌てる。
「どうしたの、お腹でも痛いの?」
希久美はまだふさぎこんでいる。返事もないので泰佑も途方に暮れているとやがて希久美が口を開いた。
「亡くなったおばあちゃんが、『水戸黄門』を観てよく泣いていたのを思い出しちゃった…。」
あちゃー、やっちまった。
「わたしね、小さいころにお父さんがいなくなって、お母さんが必死に働いて育ててくれたの。だからお母さんは、仕事でほとんど家に居なかった。学校から帰ってきたわたしを家で迎えてくれたのは、おばあちゃんだったのよ。」
泰佑は頭を抱えた。やはりおばあちゃん子である泰佑にはたまらない切り返しだ。もう希久美に掛ける言葉を失っていた。
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