オキクの復讐

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「おばあちゃんが大好きだったの。中学の時だったわ。おばあちゃんの具合が悪かったから修学旅行には行きたくなかったの。でもおばあちゃんが、思い出だから行って来いって…。わたし毎日家に電話したのよ。お母さんは大丈夫だって言ってたのに、帰ってみたらおばあちゃんの布団が片付けられていて…。お母さんたら修学旅行を台無しにしたくないと思って、嘘ついていたのね。初めてお母さんを恨んだわ。おばあちゃんの最後に一緒に居てあげることができなかったのよ。」  希久美のほほを伝わった涙が、テーブルクロスの上に落ちた。 「あの…、ごめん。決しておばあちゃんを馬鹿にして言ったわけじゃないんだ。それに、悲しいこと思い出させちゃって…。」  泰佑はハンカチを差し出した。希久美にもか弱い一面があるんだな。そう思いながら涙ぐむ彼女をじっと見つめていた。希久美は、こんなところでおばあちゃんを利用したことを心の中で詫びながらも、この瞬間を逃さなかった。グラスを手に取ると、心を落ち着かせるために飲む振りをして、ワインを胸元にこぼしたのだ。 「やだ、あたしったら…。服がしみになっちゃうわ。」  希久美はシミの具合を見るために、慌ててブラウスの襟元を引いた。首元から希久美の鎖骨が露わになった。テレサの時とは違って今度は薬も飲んでいないのに、泰佑が反応を示した。  希久美がシャワーを終えてバスローブ姿で出てきた。手には薬の溶けたミネラルウオーターを持っている。アクシデントで急遽押さえることになったホテルのツインルーム。泰佑はいすに座ってTDLの夜景を眺めていた。その後ろ姿は、何かに怯えているように感じられる。こいつこんなにうぶだったっけ?希久美は泰佑に近づきながらそう思った。 「心配ごとでもあるの泰佑。ほら、水でもお飲みなさい。」  泰佑は、希久美からグラスを受け取ると一気に水を飲み干した。何に緊張しているのか、相当のどが渇いていたに違いない。よし、これならまちがいなくやれる。泰佑が緊張していればいるほど、希久美はリラックスできた。 「別に心配ごとなどない。だいたい、そんなかっこで男の前をうろつくもんじゃないぞ。」 「シミ抜きで服を渡しちゃったんだからしょうがないじゃない。何着ればいいっていうの。それにいいのよ。恋人だから。」 「恋人って…。今日は振りだろ。ここまではやり過ぎだろう。」 「さっきから、なんで私の顔見ないの。」
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