オキクの復讐

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 今日の女子会は、なぜか和食で日本酒の気分だ。だから、希久美は、ナミとテレサを銀座一丁目にある日本料理屋に招集した。テレビなどでブームになる前から宮崎の名物『冷汁』をメニューに加えていたところメディアで紹介され、「冷汁の岩戸」として人気を博した店だ。もちろん冷汁だけではなく、築地の河岸で良い海鮮素材が安く仕入れられるため、その時期の一番を低価格で提供してくれる家庭的な店である。女子会は、いつも騒がしい乾杯から始まるのが常だ。しかし今日の希久美の声には、いつもの張りが無かった。ナミが心配して言った。 「どうしたの、復讐が成就したというのに、なんか元気ないわね。」 「まあ、明日のジョーじゃないけど、試合が終わって今はまだ真っ白って感じかしら…。」 「でも、考えてみたら、石津先輩は、オキクをほったらかして大学に行った時からすでに、オキクの復讐を受けていたってことね。」  テレサがお通しに箸をつけながらナミの言葉に続いた。 「いわば今回の復讐は、瀕死の病人に鞭を打ったって感じかな?」 「いつも思うんだけど、テレサが編集やれているのが不思議でしょうがないわ。なんて不適切な表現かしら…。」 「いえ、テレサの言うことにも一理あるわ。でも、泰佑はどうしてそうなっちゃったんだろう。精神科の医師の見地からどう?。」 「本人から詳しくヒヤリングできていないから、正確なところはわからないけど…。オキクには失礼だけど、少なくとも一度はオキクとはやれているんだから、先天性のフィジカルな理由ではないわね。やはり後天性のメンタルなものに起因しているのは確実ね。症状が現れた時期を考えると、思春期を迎える前、それも幼年期頃に心に大きな傷を負った確立が高い。」 「えー、幼年期に女の子とセックスして侮辱されたってこと?」 「テレサも短絡的ね。なにもこうなった原因がセックスの失敗とは限らないわ。でも女が絡んでいる事は事実ね。幼いころから一番多く接する女って誰?」 「母親かしら…。えー近親相姦?」 「だから、全部セックスに結び付けないでよ。」 「そう言えば、以前泰佑のおばあちゃんから昔のアルバム見せてもらったけど、母親と撮った写真が一枚もなかった。母親の写真すら見当たらなかった気がする…。」
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