ドナリィンの恋

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 ある日のデート、佑麻はドナを公園の広場に誘った。短期間のスケジュールに押し込まれたドナの過密な講義や佑麻のサークル活動などの都合で、会っても一緒に居られる時間は少ない。貴重な時間を一刻も無駄にできないと、広場へ着いた佑麻は、バッグからフリスビーを取り出した。距離を持ちながらも、ふたり一緒に楽しめる遊びを徹夜で考えだしたのだ。ドナは、フリスビーははじめてだったが、見よう見まねで佑麻とキャッチとスローを楽しむ。慣れたところで佑麻はバッグから、もうひとつのフリスビーを取り出し、悪戯な目つきで2個を同時に投げた。ドナはこれしきの事なら大丈夫とばかり、ふたつのフリスビーを追って見事キャッチ。それを確認した佑麻は、3個目、4個目のフリスビーをバッグから取り出し同時に投げる数をエスカレートさせる。ドナは、必死に食らいついていたが、さすがに5個目のフリスビーがバッグから取り出されるのを目にすると、怒って背を向けて座り込んでしまった。佑麻は、なに事も一生懸命やろうとするドナの真摯な性格とともに、すねた顔も笑顔と同じくらい可愛らしいことを発見したのだった。  ドナのご機嫌を直す意味も含めて、コップで飲むしぐさで『飲みもの欲しい?』と佑麻が問うと、ドナは親指を立てて『ちょうだい!』と答える。佑麻は、近くの売店へ向かった。ドナは、フリスビーをおしりの下に敷いて芝生に座りこむ。今日は気持ちのいい日だ。空を仰ぎながら、祖国の暑さを思い出そうとした。日本でこんな涼しい空気に触れていると、マニラの一年中続く重苦しい暑さを忘れてしまう。佑麻はマニラのむせかえる暑さをどう思うだろうか。雑多な臭気が混ざったチャンパカ通りでも、佑麻は顔をしかめず歩いてくれるだろうか。やがてドナは、なぜそんなことを思い始めたのか不思議になり、頭を振って考えを切り替えた。 「彼女。ひとり?」  若い二人連れの男が、日本語で話しかけてきた。身なりを見れば、外国人のドナでも、彼らが紳士でないことは一目瞭然である。ドナは、立ち上がりこの場からすり抜けようとするが、もうひとりが行く手をふさぐように立ちはだかる。 「どこから来たの?」「かわいいじゃない。」「そのへんでお茶でもどう?」
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