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彰夫がまず知りたかったのは、テルミが好美をどれだけ認知しているのかだった。テルミが好美に抵抗するとか攻撃するとかがあるとすれば、それは相手を認知していることが前提だ。その認知の度合いによって、彰夫の対応の仕方も考えなければならなかった。
彰夫は何とか話を聞き出そうと、ある夜寝ずにテルミの帰宅を待っていた。いつも通りに酔って帰って来たテルミは、リビングで待ち構えた彰夫にあからさまな警戒を示す。
「なによ…。そこで何してるの。」
「そんな怖い顔するなよ…。寝られないんだ。少しおしゃべりしない?」
「彰夫と話すことなんかないわ。そんなことより、セックスしよう。あたしもご無沙汰だし、彰夫もよく寝られるわよ…。」
「いや…そうじゃなくて。」
「彰夫が嫌なら、他の男と寝るわ。」
「そ、そんな脅しを…言うな。」
「あら、あたしが他の男と寝るのが嫌なの?」
「ああ、絶対に嫌だ。」
「それでも、あたしとセックスするが嫌なの?」
「脅されてするなんて、まっぴらだ。」
「あの女とだったらやりたい?」
「それは…。」
彰夫は答えようがなく、慌てて話題を切り替えた。
「テルミ、あの女のことをどこまで知ってるんだ?」
「ぜんぜん知らないわよ。」
「この前、急性アルコール中毒で倒れた時、うわごとであの女のこと言ってたじゃないか。」
「言うわけないでしょ。」
テルミは、吐き捨てるように言うと自分の部屋に入り、荒々しくドアを閉めてしまった。
テルミが自分の寝室に入ってしまえば、彰夫もリビングに居ても仕方がない。ベッドに横になり睡眠を取ろうと試みたが、いろいろな考えが頭を巡った。今日の対話は失敗だった。次回にテルミが現れるまで対話はお預けだ。今日はまったく知らないとシラを切られてしまったが、そんなはずがあるわけ無い。テルミ相手にどう対話を誘導したら、拒否されずに、求める答えが引き出せるのか…。やはり、苦手な酒を飲み交わしながら話すしかないのか。そんなこと考えているうちに、ますます頭が冴えて、なかなか寝付けなくなっていた。ふと、ドアをたたくかすかな音に気づいた。
「はい?」
「彰夫さん、まだ起きてますか。」
声のトーンが、好美だった。
「ええ、どうしました?」
彰夫がドアを開けた。好美が、パジャマ姿で立っていた。
「自分の部屋に…誰か居るみたいな物音がして…で目が覚めてしまって…そしたら、なんか怖くなって…」
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