アキオ・トライシクル

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 怒ったテルミが好美に、また何か悪さをしたのだろうか。好美がまた小鳥のように震えていた。 「温かいココアでも作りましょうか?」 「いえ…ただ怖くて…。」  好美が消え入りそうな声で言葉を続けた。 「彰夫さんのベッドで…一緒に寝てもいいですか?」 「一緒って…。」  戸惑う彰夫に、好美が顔を赤くした。しかし、顔を赤らめながらも、肩の震えが止まらない。よっぽど怖い思いをしたのだろう。 「ごめんなさい。変なことお願いして…。やっぱり…。」 「それで好美さんが安心できるなら、僕はかまいませんよ。」  彰夫は、絶対に手を出さないぞという固い決意を持って、自分のベッドに好美を迎え入れた。しかし、迎え入れた瞬間に後悔する。当然なのかもしれないが、好美はパジャマの下に何もつけていない。そんな彼女を直接肌で感じると、その暖かさと柔らかさに溺れそうになった。好美が発する香りとオーラで理性を失いそうになった。ベッドに入ってきた好美は、彰夫の腕の中で小さく震えていた。やがて、好美が彰夫にしがみつく力を強めると、ゆっくりと彰夫の唇を求めてきた。好美の濡れた唇が触れた瞬間、彰夫は押さえていた理性の堰がついに壊れ、好美を強く抱きしめた。好美は長年待っていた恋人にやっと出会えたかのように彰夫を受入れ、そしてふたりは激しく燃えた。  朝、彰夫が目を覚ますと、ベッドに好美は居なかった。時計を見ると、すこし寝坊したようだが、ゆうべの至福を考えると慌てて家を出る気にはなれない。部屋を出ると、好美がキッチンで朝食を作っている。コーヒーが、いい香りで彰夫を迎えてくれた。彰夫は好美の顔を見るのがちょっと照れ臭かった。 「おはようごさいます。」  そう言いながら、笑顔の好美が、コーヒーカップを手渡してくれた。受け取る時に、好美の手が彰夫の手に触れた。彼女の肌の柔らかさと温かさが、昨夜のふたりを思い起こさせてくれた。彰夫は今夜から寝室はひとつでもいいかもしれないと、ひとりでニヤケながら考えていた。 「ゆうべはリビングで、遅くまで宅建試験のお勉強していたんですね。」  グレーの瞳を朝日に輝かせながら好美が言った。 「わたし先に寝てしまって、ごめんなさい。」
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