友に告ぐ

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「竜はさ、きっとこの世界は合わないんだろうな」 背後から掛けられた言葉に窓の外へ足を投げ出して居た黒須は首だけで振り向いた。 声の主は分かっている。この教室で黒須の事をそう呼ぶ相手は一人だけだ。だから表情を作ることもせず無表情で振り向 いた黒須に痩身の青年は小さく肩を竦めた。 「嫌味じゃない。竜はこの世界でも上手くやってると思うよ、ただ…」 ー見ていて痛々しいくらいに「自然」を装うからー 「…幽には不自然に見える訳だ」 「…そういうんじゃないけど」 白嶺幽(しらねかすか)はこの世界で黒須が唯一「友人」と呼べる人物だった。 華奢な身体に白い肌を持つ彼は見た目通りの大人しい性格で黒須とは大した接点もなかったが、とある出来事がキッカケで知り合った二人は不思議と気があった。 黒須の異常な人格を理解してくれる数少ない人間でもある。 「俺にはさ、もう人間が骨と肉と血と、何かグチャグチャしたものの固まりが動いているように見えるんだ」 「……それで?」 「うん、それなのに綺麗なんだよな。で、それを一つ一つにバラバラにしてみたらもっと綺麗なんじゃないかって」 窓の下を行く生徒達は下校中。 その人混みの中に爆弾が落ちて肉片が飛び散る様を想像し黒須は口端を持ち上げた。 「…また良くないこと考えてる」 「やだなぁ、芸術について考えてただけだぜ?」 コンクリートに染み込む赤は綺麗だろうな、とか。 流石に声には出さないけれど、何かは伝わったのか幽は少し寂しげに眉を下げた。 「それで、肉体から離れた魂は…?」 「俺はそんなん興味ない」 「怒られるよ?」 誰に?とは聞かない。黒須の背後で僅かに視線をずらした幽が「何を」見ているのか黒須には分かっている。 だから分かった上で続けた。 「俺が綺麗だと思うのは見える、感じられる範囲の物だからな、その範囲のものなら死ぬ間際に溢す吐息さえ俺は愛せる」 「…うん。竜の愛は異常だけど真っ直ぐだよな」 羨ましいよ。と吐息混じりの言葉が聞こえ、 黒須はようやく足を教室に戻して座り直し幽と向き合った。
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