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「愛してやるよ幽。お前の望むようにお前の魂を認めて…………壊してやる」
鎌を抜けば鮮血が散る、その傷口に手を捩じ込めばズルリと腸を引き出し引きちぎる。手が血と潰れた内臓で汚れる。中身を全て出して人間の剥製なんてどうだろう。
「ガッ……ハ……ま、た…良くないこと…考え…て る…」
「やだなぁ、芸術について考えてただけだぜ?」
唇から血を流し身を痙攣させる姿は綺麗だった。
鎌を使い幽の右腕を落とし無機物と化し たその指先に愛しげに口付ける。これが先程まで命を持って動いていたのか。幽という一人の人間を形成する一部として。
切断面には骨が覗き滴る血はワインのように見える。
「や…っぱり、竜の…愛は真っ直ぐだ…」
幽の声が聞こえる。 足、指、腿と切断していくうちに幽の声はなくなり、やがてそれは幽だったものになった。
最後に綺麗な首を血にまみれた手で斬り落とし両手で持ち上げる。両手の血に包まれて白い幽の顔に朱が映えた。
消滅していくのだろう、手の中で幽の首は徐々に透けて消えていく。
「……ハハッ、綺麗だ幽。やっぱりお前は最高の親友だぜ」
バイバイ。
小さく告げた言葉に答えるように幽の首は空気に溶けて消えた。
首も、解剖した体も。黒須の身を汚した血も、彼を形成していたものが全て、全て黒須の手の中で消え去った。
消える瞬間に見た幽の顔が笑っていた気がするのは気のせいでは無いだろう。
「言ったろ?手に収まらないなら意味がないって。……でも良いんだ、お前は俺に白嶺幽という存在をくれた。俺はお前に愛を与えた……そうだよな、幽」
思い出すのは愛された事がないと寂しげに笑う親友の姿。
しかしそれもほんの僅かのこと。
存在を消滅された幽の姿はもうどうしたって思い出すことが出来ず、やがて彼の存在をもその記憶から消えたのだった。
Fin
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