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「ですから…お嬢。そういった遊びは若ぇ のとやって下さい」
「いやっ!鷺沼としたいのっ」
鷺沼の前には9歳ほどの少女が両手に縄跳びを持ちそれをこちらに向けていた。
もう3度目になるやりとりに鷺沼はため息を零し目を通していた書類をテーブルの上に放る。
縁側に片膝を乗せていた少女が期待に目を輝かせているのを横目に半開きの襖を開け放ち襖の前で正座をしている男に目を落とす。
「吉野…、お嬢は退屈だそうです。公園に でも行って来て下さい」
「へ、へいっ…」
その言葉を聞いた途端少女の頬が膨れ不満げな表情を浮かべた。
「いやーっ!鷺沼と遊ぶのーっ!」
「お嬢…え、縁さん…」
「二度は言わねぇぞ」
「お嬢っ!吉野と公園に行きやしょう、縁さんは仕事中ですから…ねっ?」
少女を抱き上げた吉野はほとんど懇願するような声で少女に声をかけたが少女の方は抱き上げられながらも鷺沼に不満げな視線を送り続けていた。 その目が訴えるものを見なかったことにして鷺沼は部屋へと引き返す。
「鷺沼の馬鹿――!もう遊んでやんないん だからー!」
少女の叫び声を聞きながら襖を閉める。静かになった和室で座布団に腰を落とし再び書類を開いた。
―もう9歳か、大きくなられた
少女、八幡檸檬(やはたれもん)が生まれた 時、鷺沼はまだ23歳だった。
15の時に先代の組頭に拾われ8年、ようやく責任のある仕事も任され始めた頃だったように思う。 それが今や、幹部の一員に腰を落ち着けているというのだから年月が経つのは早いものだ。
檸檬が生まれた時の先代の喜びようは大変なものだった。こんな自分も遂に祖父になったのだと鷺沼に写真を見せては自慢したものだった。
―お前も人の親になってみれば分かる
口癖のようにそう鷺沼に言い聞かせたもの だったがその言葉に上手く答えられたことはない。
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