名無し子

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「帰るところ、ねぇんだろう」 「だったらなんだ」 「俺ンとこ来い。な、縁」 「えにし…?」 最初、いきなり八幡が口にした言葉が自分を示すものだとは思わなかった。 が、八幡が鷺沼を見ながら満足げに笑っているのを見て、ようやく自分の事を差したのだと分かった。 「お前の名前だよ、ねぇなら俺が付けてやる」 「いらねぇよ、そんなもん」 「良い名前だろう、縁。今までのお前は知らんがな、人の縁ってのは大切なもんだ。良い縁であれ悪い縁であれ、縁があって人は成長していくもんだ。俺とお前が会ったのもまた縁。そういったもんを大切に出来る人間になれ」 縁。自分から財布をスッた悪餓鬼に名前を与えて組に引き込んだ先代八幡厳一も今や隠居しすっかり好々爺だ。 そういえば出会った頃、先代は既に50近かったんだったか。 口煩く、厳しい八幡のおかげで悪餓鬼だった鷺沼は八幡組の幹部にまでなる事が出来た。 今や、当時若頭だった厳一の一人息子が組を継ぎ、組は益々発展しているが、鷺沼の信頼は常に先代厳一に委ねられている。
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