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あれからいくらか過ぎて、俺たちは適当な大木の根っこに座っていた。終始無言、ってまではないけど何から話せばいいのやら。
早く学園に帰りたいのは山々なんだけどこの件を放っておくと心がモヤモヤしそうだ。彼女もだいたい同じ考えだと思うし早いところ済ませたい。けど俺から話しかけたらダメだよなぁ。
ちょっと横目で見ると偶然にも彼女と目があった。
「…………っ」
「…………」
ど、どうしよう。またそらされた。もう一時間くらいこの調子だ。会話どころか向き合うことすらできない。少し立ち上がると「あ……」って泣きそうな顔になるし、逆に近づいてみると同じ距離だけ離れちゃうしどうしよう……。
「に、人間さん……」
頭を抱えていると隣で呟くように声をかけられた。とても小さな声で危うく聞き逃しそうだった。ようやく話しかけられた嬉しさをできるだけ表に出さずに平常心で聞き返した。
「な、なにかな?」
しかしこんな気まずい状況で会話するのってこんなに緊張するなんて思わなかったよ。
とにかく落ち着いて聞かないとな、うん。
「河に引きずり込んだの私なの」
「なんですと?」
予想外の告白だった。
「ごめん、よく聞こえなかった」
「……引きずり込んだの私」
聞き間違いじゃなかったか。
「…………」
「…………」
「ごめんなさい!」
「怒ってないから逃げないで!」
黙り込んだのはさすがにまずかった。咄嗟に止めようとして背を向けて走り出す彼女の手を握った。
「って、うわっ!」
彼女の腕を握った俺はそのまま止めようと足腰に力をを入れたのだけど、なんと走るときに振る腕の動作をされた瞬間に体が勢いよく引っ張られた。
なんて力だよ!なんて思っていられない。彼女はそのまま腕を無視したまま走り出した。彼女はみるみるうちに加速していって、腕を握る俺は驚きのあまり握ったまま中に浮いていた。
見た目は同じくらいの年だが背は低く、見た目の偏見ではないけど力仕事なんてできそうもない。けど気づいてるのか知らないけど、さぞ当たり前のように俺を浮かばせながら走っている。
「ちょ、す、ストップストップ!落ち着いてって!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
ダメだ、声が届いてない。
森の中を駆け巡る彼女に掴まるのもやっとのこと。気を抜けば振りほどかれてそのまま去っていきそうだ。
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