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沈んでいく俺は深くきれいな湖を水中から眺めていた。ずっと先まで透き通っていて、水面の様子もどんどん沈んでもよく分かる。
握っていたはずの彼女の腕の感触はない。はぐれちゃったようだ。けど彼女はあそこまで自信があって飛んだようだし大丈夫だろう。
そんなことよりちょっとヤバイな。思った以上に体が持たないかもしれない。どんどん沈んでいって体も自由に動かないし、なぜか魔法もうまく発動できない。
それどころか息がこれ以上続かない。早く這い上がらないと死ぬかもしんない。
「や、やぁ……」
「っ!」
水中でひっくり返って沈んでいると目の前に逆さまになってムラサキナズナさんが現れた。いや、水面から逆さまなのは俺だから違うか。
「た、助けよっか?」
ホント?お願いします!声には出ないけどうなずきと瞳で訴えた。
彼女は俺の背後に泳いで回り込むと右腕を前に通して抱えると、水面に向けて猛スピードで泳ぎ出した。人間の泳ぐ速さでなく、まるで魚のように速かった。
そろそろ意識を失いそうになってきたが、その前に水面から太陽の輝きを感じた。
「勢いよく飛び出るよー」
彼女は俺の返事を待たず、グンッと一気にスピードを上げると水中を蹴るように水面へ飛び出た。
「ぶはっ!」
息ができることに感謝。何度も水を吐き出しながら大きく深呼吸をし、また何度も水を吐き出した。胸や鼻やと所々が痛い。
「だ、大丈夫?」
「……う、うん……キミ、泳ぎ、上手……なんだね……」
息が切れて上手く喋れないが、もう彼女もいるし安心していいでしょう。さすがにここから捨てていくこともなさそうだし。
「だ、だって……もう、気づいてるでしょ……」
気づいてる?いったい何をだい?
聞き返そうとしたけど咳き込んでしまった。彼女は言いづらそうに、しかし両腕を背後から回すと話してくれた。
「私、に、人間さんたちが嫌ってる……河童だよ……」
その声には力がなく今にも泣き出しそう。背中に顔を埋(ウズ)める彼女はとても辛そうだった。だが俺には関係なかった。彼女がどう思おうと俺はこの言葉一つしかない。
「……かっぱ……ってなに?」
「……え……?」
俺の無知な質問に、彼女はキョトンとした声をあげた。
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