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そんな、いきなり私は『かっぱ』だなんて言われてもどう答えればいいのやら。質問程度ならできるけど、それ以上の大袈裟な反応なんてできはしない。
その『かっぱ』ってのも初めて聞くし、じゃあ彼女が『かっぱ』だからなんの意味があるんだろ?見ただけじゃ俺と変わらないけど?
「まぁ、キミがそのかっぱだとして 、落ち着いて話したいから移動したいんだけど……」
「水の中が一番落ち着く……」
「そ、そっか……ならここで話そうか……」
「ありがと……」
水の中が落ち着くって、なんだか変わってるな。普通だったら河岸に上がるだろうし……まぁ、もう引きずり込むことはないと思うけど……。
俺を抱き締める彼女は、今までよりも全く元気がなくてとても話せる雰囲気じゃない。水の中で見れた小さな笑みも、今思えば少し悲しそうだった。
「あ……」
もしかしたら、『かっぱ』という言葉はなんらかの差別用語かもしれない。俺の知る限り他人種から差別されてる半獣人がいるけど、たぶんそれに似た立場の人種なんだろうか。だとしたら、俺、軽はずみな発言だったかもしれない……。
「ごめん……」
「な、何で謝るのさ、に、人間さん。キミは悪いことなんてしてないよ。今ここにいるのも私が原因なんだから……」
俺を抱える腕に少しばかり力が入った。彼女はずっと震えて、息苦しそうで、今にも沈んでしまいそうで、それが全身から伝わってきている。
すると「あぁ、そっか……」と、背後で一人言。どうやら一人で何かを思い至ったのかもしてない。
「どうしたの?」
「あ、うん。たぶんだけどね、キミは異世界から来たと思うんだ……」
「い、異世界?」
意味が分からず首をかしげた。
異世界が何なのかってことじゃない。なぜそれに思い至ったのかということだ。
確かに俺は不思議な空間を渡ってここまで来たし俺と彼女に若干の知識の違いがある。ただ俺の知識不足の可能性もあるから肯定素材としては不足すぎる。
ならどうして異世界からと言ったんだ?
「恐らくね、に、人間さんが流れてた河の上流が空間の裂け目だったと思うんだ」
「上流に?」
「この山はね、に、人間さんのような人や物がよくやって来るんだよ。私たちが住む世界や国とは全く違うところから。……信じられないと思うけど、事実だと思うよ」
彼女はずっと山の奥を指差していたけど、俺はとてもその言葉を信じられなかった。
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