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俺にとっては当たり前なことでも彼女にとっては泣くほど嬉しかったことなんだ。俺にはその気持ちの全ては分からないけど、ここまで泣かれると恥ずかしいな。
「ほら顔を上げなよ、ね。こう泣かれてたら話ができないよ」
「ぅん、うん……もう、少し待って……!」
ムラサキナズナさんは頬に伝う涙を懸命に拭って泣き止もうとするけど、涙は止まることなくずっと流れてくる。
そんな彼女の姿はやはり人間そのもの。ようかいというのも嘘のように感じられて、なぜここの人間は彼女たちを避けているのかと疑問を持ってしまう。
過去に何かあったのか、それとも現在まで続く何かがあるのか、この異世界(?)に来たばかりの俺には分からない事だらけだった。
「ご、ごめっ……ごめん、ね……は、はずか、しいところっ……見せちゃってっ……」
「そんな事ないよ。俺だって泣くときは泣くって」
嗚咽しながらもなんとか泣き止んだカセンミドリさん。なんとなく微笑ましてクスクス笑いたいけどきっと困惑するだろうし、それでもどうせなら笑顔になってほしい。
ようかいがどのようなものか俺はまだまだ理解してないけど、それでも人間と同じ『感情』という物を持っていることは確かだ。 彼女も人間も、そう変わりない存在かもしれない。
濡れていた服はもうすっかり乾いていて汚れも全くない。これは彼女の持つ【水を操る力】によって服の水分と汚れを洗い流してくれたためだ。
【水を操る力】はかっぱ特有の力で他の人間やようかいに引けをとらない、らしい。なぜ曖昧なのかは未だに彼女以外と会ってないからだ。
「け、けどやっぱりダメだよ。私なんかと仲良くなろうとしたらっ!私は妖怪だよ!人間さんと仲良くしたら他の人間さんや妖怪に何をされるか分からないよ!」
「気にしすぎだよ。俺はキミの言う通りなら異世界人でこの世界には全く知り合いなんていないし、仮に違う国に飛ばされただけであってもやっぱり知り合いはいない。だったら頼れる誰かといた方が安全だよ」
「違う、違うのっ!人間さんが思っているほど甘くないんだよ!だ、だって妖怪は――あ、危ない!」
「え?」
俺はまた彼女に抱えられると訳も分からず地面に転がった。それと同時に爆発なような音と突風に襲われて河の方に激しく吹き飛ばされた。
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