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彼女に抱えられた俺は混乱しながら河からさっきまでいた場所に目を向けた。無惨にも巨大な穴ができていて木々も同様に吹き飛んだり薙ぎ倒されていた。
「なぜその人間を庇うのかしら、紫奈瑞菜。この山一帯は人間の立ち入りを禁止されていたわよね」
声につられて空を見上げると、灰色のローブを覆った白色の髪の少女が本を片手に浮いていた。こいつが俺たちを吹き飛ばした犯人なのか?
「ま、待ってよ話を聞いて!この子は自分の意思で山に入ったんじゃないんだ!」
「あらそう、関係ないわ。どんな理由であろうと山に侵入したのは事実ですもの。さっさとその赤髪の人間を追い出すか殺すかして山から出ていってもらいましょう」
「っ!」
こ、殺すだって!?いきなり現れたと思ったらなんなんだこいつは!
「人間、三秒時間を与えるわ。それ以内に死ぬか出ていくか答えなさい」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!殺すってどうしてさ!」
攻撃されて即死刑宣告っておかしいだろう!こっちには時間も与えないって言うのか!
「一、ゼロ……あら、時間切れね。目障りだから死んでもらうわ」
無視された!って、魔法陣展開してるし!あの人も人間なんじゃないの!?
「あーもう!ノインのバカ!バカバカバーカッ!逃げるよ、人間さん!」
「え?あ、う、うん……」
魔法を放つ寸前、俺は彼女に抱えられたまま河の中に引き込まれた。
初めて沈められたのとは違って不安や息苦しさはなく、潜る直前に薄い水の膜が俺を包み込んでたぶんそれのおかげだ。息も視界も十分にとれて水の抵抗が全くない。
うねりのない一本道を瞬く間に進んでいく彼女は黙ってしまい、何もできない俺も黙ったまま身を任せていた。
このまま逃げ切ったらどうする。俺は彼女曰く異世界の人間で帰り道は恐らく山なんだけど 、あんな人がいたら帰りか方を調査するどころか近づくことすらできやしない。
「あ、やばっ」
「え?」
彼女が呟いた瞬間、目の前の水面が激しい爆発を起こした。止まったのはこの爆発を察したからだと思う。
俺を左腕に抱え直すと、右手を前に出し俺にでも分かるくらい厚い水の膜を発生させた。爆発の衝撃も膜により緩和され衝撃もそこまでなかった。
「なにするのさ!」
河の中から叫ぶムラサキナズナさん。水面に出るのは危険だけど水中で叫んでも声は聞こえるのか?なんて心配はしたもの考えるだけ無用だった。
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